建築確認の責任
耐震偽装に関連した裁判で、はじめて建築確認の責任を認める判決がありました。愛知県のビジネスホテルのケースです。

「「許可」ではなく、「確認」だから」というような字面にとらわれた不毛な言い逃れは、実態を考えるとナンセンスです。耐震偽装以前から、その権限や役割には重みがありました。それにもかかわらず、耐震偽装が発覚して以降、責任回避のための論陣が張られていました。

曖昧にとらえらえていた権限や役割を再確認させられる判決です。

ところで、以前に判決が出ている奈良のビジネスホテルのケースでは、建築確認にかかわったイーホームズの責任などは否定されているので、この判決とは異なるように思えます。奈良のケースは、耐震強度が不十分であるということを承知していながら木村建設が引き渡しを行ったことが、損害の原因であるという判決で、木村社長の詐欺が有罪になっていることを反映しています。違法建築が作られたことによって損害が生じたというより、違法建築を買わされたことで損害が生じたと考えて展開された裁判であったと思われます。この裁判とは異なる性質の裁判だったと考えるべきです。

耐震偽装ホテル訴訟 愛知県の過失認定


名古屋地裁 建築確認「注意怠る」
 耐震強度偽装事件で、強度不足のため建て替えられた愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」(中川三郎社長)が、建築確認をした愛知県と、コンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」(東京都)などを相手取り、ホテルの建設費や休業補償費など計約5億1600万円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は「審査を担当した県建築主事は安全性を保つための注意義務を怠った」などとホテル側の主張を全面的に認め、県と総研側に計約5700万円の支払いを命じた。一連の事件に絡み、行政側の過失を認めた判決は初めて。

総研と5700万賠償命令
 訴訟では、元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)が担当した構造設計の欠陥を見逃した責任が誰にあると判断されるか、注目された。
 判決はまず、建築主事について「危険な建築物を防ぐ最後のとりで」と指摘し、「高い信頼を寄せる建築主に対して、専門家としての注意義務を負う」とした。
 県側は建築確認について「審査対象は建築基準法など法令が決めた項目だけだ」と主張したが、判決では、今回の設計が、すき間のある耐震壁を1枚の壁としたり、阪神大震災で大きな被害に結びつき、特に注意が必要な1階部分に耐震壁がなかったりした点などを挙げ、「建築の専門家としての常識的判断に明らかに反していて不適切。耐震強度が確保されない危険な設計で、審査対象になる」などと指摘。「建築主事の通常の審査で容易に発見できるが、放置または看過した。設計者に問い合わせるなど調査をする必要があったが、これを怠った」と結論づけた。
 また、県は「建築主にも安全を確保する責任がある」とも主張したが、判決は「建築基準法はそこまで想定していない」として退けた。
 ホテルの開業を指導した総研については、「安全性を確保するため、業者を適切に選定し指導監督する注意義務があった」と判断した。
 ホテル側は建て替え前のホテルの建設費用などの賠償を求めたが、判決は、「耐震補強工事分」にとどまるとして損害額を約2億5000万円と算定。すでに施工業者から2億円の弁済を受けているとして、差額を賠償額とした。
 同ホテルは、2002年に開業。05年12月に震度5強程度の地震で倒壊する恐れがあることが判明したため休業し、建物を解体して新築工事を行い、07年4月に営業を再開した。
 神田真秋・愛知県知事は「主張が認められず残念。今後の対応は判決の内容を十分精査し、検討する」とのコメントを出した。
(2009年2月25日 読売新聞)


「建築主にも安全を確保する責任がある」という主張についての退け方には疑問があります。「建築基準法はそこまで想定していない」というより、建築主に安全確保の責務があるのは当然だが、そのことと建築確認が果たすべき役割を混同してはならないし、断じて建築確認が責任を伴わない行為ではないということだと思います。

私は、耐震偽装のマンションの所有者としての責務を果たそうと努力しているつもりです。役割に応じた対処のための努力をしなくてはいけないという責任は、問題の原因を作ってしまったという責任は異なるものです。裁判で争われたのは、問題の原因の方で、それが賠償につながると考えるべきです。

むしろ、それぞれが果たす役割を明確にして行く必要があると思います。

また、この建物では建て替えが行われていますが、これは補修で充分だったというのが裁判所の判断のようです。その判断は、国土交通省が出した方針に従っていると思われます。これを鵜呑みにしていいのかどうかは疑問です。

この裁判の争点にはなっていないようですが、そのような方針自体に公的な正当性があるのかどうか不明だからです。技術的、性能的な点にも議論の余地があります。

asahi.com・耐震偽装訴訟 愛知県の責任認め5700万円賠償命令


 姉歯秀次・元1級建築士による耐震強度偽装事件で、建て替えを余儀なくされた愛知県半田市の「センターワンホテル半田」の経営会社「半田電化工業」(中川三郎社長)が、建築確認をした県などに総額約5億1600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は、審査に過失があったとして県の責任を認め、約5700万円の支払いを命じた。
 一連の事件で、強度不足を見逃したとして行政の責任が認められたのは初めて。判決で戸田裁判長は建築確認審査は「危険な建築物を出現させないための最後の砦(とりで)」で、建築主事には建築主の信頼に応える専門家としての注意義務があると指摘。「設計上の問題について調査すべき注意義務を怠った」と述べた。
 一方で、当時は最長21日以内に審査するよう求められており、時間的制約に加え技術的基準は多岐にわたり、すべての項目を審査するのは困難だった、とも述べた。
 判決はまず、建設省(当時)監修の「建築構造審査要領」などを基準に審査する義務があったと指摘。その上で、基準に沿い、耐震壁の強度や設計型式について、具体的に検討した。
 10階建てホテルの2〜10階の耐震壁については、強度を満たすとした姉歯・元1級建築士の設計について、「建築の専門家としての常識的判断に反し明らかに不適切」と指摘。「構造図を見れば明らかで、通常の審査で容易に発見できたのに放置または看過した」と述べた。
 柱だけで支える1階の「ピロティ」の構造についても、阪神大震災で倒壊の危険性が指摘されたため、県が原則として禁止している型式で、技術的基準に反するとした。「大災害の貴重な教訓として確認された設計上の重要な注意事項」で留意がとりわけ必要なのに、建築主事は設計者に問い合わせもしなかったと指摘した。
 これら設計上の問題について調査しなかったことが、建築主事としての注意義務違反にあたると結論づけた。
 県などの賠償責任の範囲については、補強すれば建て替えの必要はなかったと指摘して、耐震補強工事費用分にとどまるとした。その額は約2億5千万円で、すでに施工業者から2億円の弁済を受けているため、残りを最終的な賠償額と認定した。
 コンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」(東京都)と、内河健・同所長も注意義務違反があるとして、県と連帯して賠償するように命じた。総研は、設計会社の選定と下請けとして姉歯・元1級建築士に危険な構造設計を行わせた注意義務違反があるとした。内河所長は監督責任を怠ったと認定した。
 判決について、県は「主張の一部が認められなかったのは誠に残念。今後の対応は内容を十分精査して検討する」、総研と内河所長の代理人の藤田浩司弁護士は「一部でも責任が認められた結果は承服できず、控訴するか検討したい」、とそれぞれのコメントを出した。(岩波精)


この記事では、「県が原則として禁止している型式」を不問にした点を詳しくとりあげています。一般的な審査の落ち度の問題以上に、自ら定めたルールをないがしろにしていたという実態がつきつけられています。形骸化した手続きに堕していたのではないかと感じられます。


行政の怠慢明確に 耐震偽装判決


「行政には、建築主の信頼に応える義務がある」——。建築確認で県の過失を明確に認めた、愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」損害賠償訴訟の名古屋地裁判決。ホテルの営業再開後も苦しい経営を強いられている中川三郎社長(52)は、「これでようやくホテルの経営に集中できる」と安堵の表情を見せた。
 判決言い渡し後、記者会見した中川社長は、「落ち度が明確になった以上、県は少しでも早く、きちんとした対応を取ってほしい」と、語った。
 従業員を解雇して踏み出した“再出発”はいばらの道だった。7億円を超える建て替え費用が経営に重くのしかかる。昨秋以降、不況の影響もあり、ホテルの部屋の稼働率が目標に届かない月も多い。近隣にライバルとなる新しいビジネスホテルも営業を始めた。ホテル経営を取り巻く環境は厳しいが、中川社長は「地元の人たちの支えや従業員の頑張りがあったからこそ、やってこられた」と、耐震強度の偽装発覚後の3年2か月を振り返った。
 センターワンホテル半田は強度不足発覚後、自主休業を続けていたが、補強工事による営業再開を断念し、全従業員を解雇。2006年3月、10階建て126室の建物を解体した。
 07年4月には、客室を150室に増やした新たなホテルが完成し、解雇した従業員の一部を再雇用するなどして営業を再開した。
 中川社長は、耐震偽装の被害を受けた経験を各地で講演したほか、再建までの経緯を、名古屋市の劇団が演劇にまとめて公演するなど、大きな波紋を呼んだ。

審査の「専門家」 責任の重さ強調
 建築確認を行った愛知県の過失を認めた名古屋地裁判決は、行政としての責任の範囲を、幅広くとらえたものと言える。
 一連の耐震強度偽装事件では、元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)のほか、マンション開発会社の元社長らも罪に問われた。偽装は姉歯受刑者による個人犯罪と認定されたが、建築確認を行う自治体や、民間の指定確認検査機関が偽装を見抜けなかったことで、被害が深刻化したという側面がある点は否めない。
 判決は、こうした点を踏まえ、行政側の立場を違法建築物を防ぐ「最後のとりで」と表現した。安全に責任を負うのは建築主だとの訴えを始め、県の主張の多くは退けられ、その無責任体質を際だたせる形になった。事件後の法改正で、同様の偽装を防ぐ体制は整いつつあるものの、この日の判決は、審査の「専門家」としての行政に、改めてその責任の重さを突きつけたものだ。
(松田晋一郎)

愛知県「作業停滞の恐れ」
 落ち度はなかったとする主張を完全に退けられた愛知県。建築確認の担当者らは、判決に対する驚きや戸惑いを口にした。
 建築指導課の男性職員は、この日の判決について「法律で定めている以上のものを我々に求めているようにも感じた。この判決が求める基準を徹底すれば、作業の停滞などの影響が出る恐れがある」と感想を述べた。
 県は一連の耐震偽装が発覚した直後の2006年1月、同課に職員と外部の専門家による構造審査の専門チームを設置。提出を受けた構造計算書のデータを改めてコンピューターに入力して再計算し、申請書と同じ強度が得られるかなどをチェックする体制を整えた。同課の別の職員は「今は強度偽装を見落とすことは考えにくい」と話す。
 国土交通省によると、耐震強度偽装に関連し、建築確認を巡って訴訟になっているケースは現在12件あり、このうち10件で行政機関が被告に含まれている。昨年10月には、一連の偽装問題に巻き込まれ、休業した奈良市のホテルが起こした訴訟の判決が言い渡されたが、建築確認を行った民間の確認検査機関の賠償責任は認められなかった。

(2009年2月25日 読売新聞)

建築基準法という法律は、基準についての詳細な取り決めではあるものの、建築に関わる様々な立場の責任や役割については明確には定めていません。また、違法な建築に対する態度も曖昧です。

基準に対し遵法をめざす姿勢は評価すべきかもしれません。ただし、ほとんどの建物が、建築基準法が改正されると、既存不適格になってしまいます。違法とはされないものの、性能的には違法建築になってしまうというすごい法律です。

「法律で定めている以上のもの」という感想は、この法律を意味があるものにするための法律が欠落していることの裏返しだと思います。技術的に可能か不可能かという問題とは別の問題です。


勝訴の原告社長「事件乗り越え満足」

<ホテル耐震偽装>

2月24日22時4分配信 毎日新聞
 姉歯秀次・元1級建築士による一連の耐震強度偽装問題では、各地の裁判所で、行政が建築確認審査で偽装を見過ごしたとして責任を追及されている。行政側は「適法に審査した」「建築確認の項目に構造計算書の再計算は含まれない」などと反論しているが、判決はこうした行政の姿勢に疑問を投げかけた。
 耐震偽装で改修や休業を余儀なくされた愛知県大府市のホテルの運営会社(福井市)は08年8月、センターワンホテルと同様、愛知県を相手取って約2億7000万円の損害賠償を求めて提訴。運営会社の古市恭也社長は今回の判決を「行政の責任が認められた意味は大きい」と評価する。
 マンションの明け渡しを余儀なくされた元住民らも判決に好意的だ。東京地裁で同様の訴訟を争う「グランドステージ(GS)千歳烏山」(東京都世田谷区)の元住民で原告団長の西川智さん(38)は「非常にうれしい。建築確認の基準があいまいで、それを明確にすることが重要だ」と話す。同じく同地裁に訴えた「GS溝の口」(川崎市)の元住民で原告の木村政和さん(45)は「これまで元1級建築士だけに責任を押しつけ、他の関係者は責任逃れをしてきた。審査機関である自治体の過失を認定したという点で、私たちにとっても非常に明るい材料だ」と述べた。
 一方、総合経営研究所を相手取って、全国のホテル8軒と損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしている岐阜県高山市のビジネスホテル「カントリーホテル高山」のオーナー、垂井博美さん(71)は「行政の責任を認めた今回の判決を踏まえ、共闘を組んでいる仲間と協議し対策を考えたい」と話した。【山田一晶、三木陽介、鈴木一生】

 ◇東京で提訴の原告「大きな意味ある」
 東京地裁で同様の訴訟を争う「(グランドステージ)GS千歳烏山」(東京都世田谷区)の元住民で原告団長の西川智さん(38)は「非常にうれしい。建築確認の基準があいまいで、それを明確にすることが重要だ。今回の判決が東京の裁判にどのように有利に働くかは分からないが、審査する側の過失が認められたということは大きな意味がある。次の偽装を防ぐためにも良い方向に働くきっかけになると思う」と話す。
 同じく同地裁に訴えた「GS溝の口」(川崎市)の元住民で原告の木村政和さん(45)は「これまで元1級建築士の姉歯秀次受刑者だけに責任を押し付け、他の関係者は責任逃れをしてきた。今回の判決は、審査機関である自治体の過失を認定したという点で、私たちにとって非常に明るい材料だ」と述べた。【鈴木一生、三木陽介】

それぞれのケースに独自の事情があります。この判決は、特定行政庁である県が審査し建築確認を出しているケースでした。民間検査機関が関わった場合の考え方までは示されているわけではありません。

今後、どのような判断が出るのかは、個々のケースによって異なると思います。「基準」というものを扱っているため、一見、明確なものと思いがちですが、制度も運用もデタラメです。デタラメであるがゆえに、議論の余地が多すぎます。

控訴された場合、どのように判断されるのかはわかりませんが、この判決によって、考え方の一つが整理されたと思います。
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by gskay | 2009-02-26 04:53 | 損害と回復