個人資格の限界
新たな建築士制度では、上級資格の「新1級建築士」に、一律に高度な知識と技術を求める仕組みが検討されているようです。全体を見通せる人が必要と言う事かも知れません。しかし、そうした全体の管理は、事業に対する免許や、企業に対する免許で行うべきだと思います。

資格制度の見直しの対象になるような大きな建築物に関わっている建築士が担っているのは、大抵、分業化された仕事の一部分です。大きな建築物では、高度な分業と連携によって、一人では完結させることが不可能な大きな事業を可能にしています。そうした大きな建築物を作る仕組みを、一人でも完結できる小さな建築の延長で考えるのは無理だと思います。

必要なのは、鉄道会社や航空会社のような間違いの防止のための高度なシステムをもった企業や事業体を作ることです。病院のような、診療所の延長で、個々の医師や医療専門職が寄せ集められて作られているシステムに留まるべきではないと思います。直面している建築の問題は、個人の能力の向上だけで対応出来ない問題であると考えるべきです。

業界は、独立志向の強い小規模業者が集まってできています。これは、小さな建築には都合が良かったかもしれません。このため、重複して同じような業者がひしめく一方で、重視されずに放置されている分野もあり、いびつです。業界は、小さな建築に対応した仕組みのままで、大きな事業を手がけるようになっていると思います。

事業が巨大化し、高度になっている以上、単に小規模業者を寄せ集めただけでは、質の高い建築を、間違いがないように実現するのは難しくなっていると思います。また、企業の利潤や、働く人の報酬を高めようにも、バラバラな仕組みが足枷となっているのではないかと思います。小規模業者を集めて管理すること自体、無駄なコストが必要になっているのではないかと思います。

必要な技術は確保されていると思います。しかし、それが制度的に活かされていません。

そこで、個人個人や小規模業者の寄せ集めに期待するのではなく、包括的に事業体や企業を審査し免許を与える仕組みが必要ではないかと思います。

同時に、高度な内容についての個人資格は、個別の専門について審査し、個別に免許を与えるべきだと思います。オールマイティーな免許は、小規模業者が何もかもこなすために必要な資格であり、大きな組織の大きな事業で必要なものだとは思いません。

設計や監理に関する資格、構造に関する資格など、きめ細かく業務を分析し、個々人の能力向上を促すべきだと思います。その一方で、企業や事業体という組織が効率的で間違いがないように事業を進めることができるかどうかを審査するべきです。そして、個人個人の専門家の役割と責任や、組織の役割と責任を明確にする必要があると思います。

耐震偽装についていえば、それを見抜くような能力を個々の建築士全員に求めて済ますべきではなく、検査能力を向上させるべきです。耐震偽装を見抜く能力が、超能力のように個人の建築士に身につくとは思えません。再計算で問題が判明したように、手間を惜しんではいけないのだと思います。厳格な検査が実現できる方策をとれば済む事です。

新たな仕組みは、「新1級建築士」に責任を押し付けていますが、もともと無責任体制であった検査を一層骨抜きにする制度だと思います。耐震偽装などの致命的な誤りへの対策に必要なのは、検査の責任を明確にしておくことです。

専門的で高度な能力をもった専門家を確保することは必要ですが、大きな建築物を作るという巨大な事業を間違いなく進めるためには、個人の力に頼るには限界があります。そこで、優れた企業や事業体という組織の力によって、適切に様々な分野の専門家の能力が連携できるような仕組みを構築しなくてはなりません。

現在、小さな事業が大きくなっただけの仕組みや、小規模業者の寄せ集めが、適切な事業を進める上での障害になっていると思います。これは、安全や品質の確保に問題があるだけでなく、効率を損ね、結局、業界に働く人の首を絞めていると思います。
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by gskay | 2006-06-28 14:29 | 揺れる システム