『耐震建築の考え方』
耐震について、それほど多くの本に目を通してはいません。設計の技術論は、専門家に任せていていいと、こんな事態に巻き込まれていても、呑気に考えています。というより、そんなの理解できたら、自分で設計します。

それよりも、建築の合理性が気になります。その関心に応えてくれたのは、『耐震建築の考え方』という本です。一般人向けに考え方や心構えを説いた本です。このような本は少ないようです。

128ページしかない薄い本なのに、1200円という本で、巻き込まれていなかったら、手にはしなかっただろうという微妙な価格です。

この本の中身を理解した上で、報道が行われたり、対策がとられていたなら、別の方向性もあったように思います。技術的なことを不勉強のままトンチンカンに取り上げてしまったため、無邪気なバカ騒ぎになってしまったのではないかと思います。肝心なところは、別のところにあったということになると思います。

ところで、この本の17ページに、「設計用地震動強さとコスト上昇」というグラフが示されています。400ガルを1.0として相対的に建築費がどう変わるかを示しています。2倍の800ガルにするには、1.1。逆に2分の1の200ガルにするには、0.95。たったこれだけの変化で、劇的に強度が変わります。

マンションの価格にしめる建築費の割合を念頭におくと、この数値は、かつてNHKスペシャルが試算していた数値に似ていると思います。「たったそれだけ」で大きく変わることがわかります。

一方、82ページから「総費用最小化の原理」が書かれています。建設費と期待損失費の和が最小になるところがちょうどよいバランスだとしています。損失の評価が難しいところですが、その最適値以上のコストはかけておくべきだということになると思います。

この最適値の概念を用いると、元建築士の行った設計は、全く経済設計とはいえないということになると思います。削減できたコストが少なすぎます。その上、今回、地震の被害による期待損失以外に、違法が露見した場合の損失という別の損失が加味されました。結局、元建築士の設計は著しく不経済であったということになると思います。売り主にとっても、住民にとっても不経済でした。

そういう点で、「安物買いの銭失い」という評価には妥当性がないわけではありません。しかし、それは「たったそれだけ」。ヒューザーの「安くて広い」の「安い」に対する合理的な説明にはなっていないように思われます。(それに、世間で言う程、安くはないし……)

それはそうと、適法を前提に、地震被害の期待損失を加味した購入はできていたと思います。その部分については、大きな疑問や不安を感じませんでした。おそらく、売り主である建築主のヒューザーも同様の判断だったと思います。

ところが、違法。これは、建築確認や検査の無謬を前提にしていただけに想定していませんでした。違法発覚後、どのような影響が生じるかは、誰も確固たるイメージを持っていなかったのではないかと思います。

少なくとも元建築士が設計した時点では、違法の露見がこのような損失を作り出すということはわかっていなかったと思われます。違法が大きな損失につながることが明らかになったのは、この事件が問題になってからのことです。

そもそも、違法という状況は想定されていなかったのです。『耐震建築の考え方』でも、その点への言及はありません。当然です。

ところで、「経済設計」というのは、同じコストなら性能を極大化したいという願望でもあります。それは、『耐震建築の考え方』が取り上げる経済性とは全く異なった次元の問題であり、純粋に技術の問題だと思います。それを混同してはならないと思います。
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by gskay | 2006-09-26 10:53 | 揺れる システム