小嶋元社長公判冒頭陳述
共同通信から、記事を二つ引用します。初公判の検察側、弁護側の冒頭陳述の要旨です。詳しい報道ですが、いずれの主張も目新しいものは少ないように思います。

検察側は、「犯行」に関連する発言を、うまく拾っていると思います。ただ、確信に基づいているというより、迷った末に引き渡しに至った経緯を明らかにしているようで、検察の主張は弱いような気がします。これが、限界なのかも知れないと感じました。

検察側冒陳要旨 小嶋元社長の初公判


2006年10月05日
 東京地裁で5日開かれたマンション販売会社ヒューザーの元社長小嶋進被告の初公判で、検察側が読み上げた冒頭陳述の要旨は次の通り。
 【犯行に至る経緯】
 小嶋被告は2004年4月、元1級建築士姉歯秀次被告の事務所に、グランドステージ(GS)藤沢の構造設計を発注することを決裁。姉歯被告は、地震力を小さく設定するなどして内容虚偽の構造計算書を作成した。
 指定確認検査機関イーホームズ(イー社)は改ざんを見過ごし建築確認を行い、木村建設が施工。GS藤沢の引き渡し日は05年10月28日に決まり、顧客11人らに同日午前までに残代金を振り込むよう請求した。
 イー社は同年10月21日、(ヒューザーが建築主の)別のマンションで姉歯被告の計算書に改ざんがあることを指摘され、同月24−25日、ヒューザー側に伝えた。25日午後4時ごろまでには、GS藤沢を含む11物件の改ざんが判明した。
 【犯行状況】
 小嶋被告は25日夕、ヒューザーのマンション設計を元請けしている会社の役員から「大きな地震がくればヒューザーのマンションは倒れる恐れがある」と改ざんの説明を受け、「うちのマンションが真っ先に倒れるのか。そんな大きな問題とは思わなかったな。物件購入者に言わなきゃいけないかな。待てよ、やっぱりおれは知らなかったことにした方がいいな。極力、口外しないようにしよう」と応答した。
 26日には、ゴルフ場で部下から電話で、姉歯被告が計算書を改ざんしていたGS藤沢を含む7物件の報告を受け、ゴルフの同伴者に「藤沢の担当も姉歯なんだ」と話した。27日、イー社との会合でGS藤沢を含む11物件で改ざんの調査結果を告げられ、姉歯被告も「震度6の地震で建物が保つか分からない」と発言した。
 小嶋被告は26日、引き渡しについて尋ねる部下に「検査済み証も下りているし、問題ない、問題ない」と回答。27日のイー社との会合で「地震で建物が倒壊したときに発覚したことにしてもらいたい」と公表を思いとどまるよう要求。
 会合終了後には、「解約しないといけないかな」と部下に尋ねたが「インターネット社会だからすぐに広まってしまう。当社は立ちゆかなくなる」と返答され、「そうだよな」などと答え、顧客からの代金入金を阻止せず、引き渡し中止をしないことを決定した。
 引き渡し当日の28日午前、部下にGS藤沢の新規販売中止を指示したが、引き渡しについては「それはいいんだ」と話した。GS藤沢を含め入居済みの7物件で、購入者から買い戻しを行った場合、約50億円の債務超過に陥り、買い戻しは財務上不可能だった。


一方の弁護側は、「国策捜査」、「政治的な目的」、「訴追裁量権を大きく逸脱」と少し大げさかなと思います。また、「耐震強度偽装事件は起きるべくして起きた事件」、「責任は国土交通省など行政」、「誤った制度の導入」という「事件の本質」も問題にしているようです。

いずれも、世間を騒がせた「耐震偽装事件」の本質に迫る問題かもしれませんが、問題となっている「詐欺」に対しては間接的なものです。強調すべき点を間違えると、何の裁判なのかわからなくなってしまうような気がします。

弁護側冒頭陳述要旨 小嶋元社長の初公判


2006年10月05日

 マンション販売会社ヒューザーの元社長小嶋進被告の弁護側冒頭陳述の要旨は次の通り。
 【弁護人の主張】
 被告は無実にして無罪である。被告に対するいわれなき嫌疑は直ちに晴らされ、無罪放免されなければならない。本件は国策捜査であり、政治的な目的の下に訴追裁量権を大きく逸脱して公訴を提起して違法であり、直ちに棄却されなければならない。
 【事件の本質】
 耐震強度偽装事件は起きるべくして起きた事件であり、その責任は国土交通省など行政にある。イーホームズ(イー社)など民間の指定確認検査機関だけでなく、地方自治体の建築主事でさえ偽装を見落とした。
 今回の事件は民間検査機関という誤った制度の導入によるもので、責任が行政にあることは明らかである。
 【意図的な捜査】
 検察は被告の単独犯行による詐欺事件としてでっち上げ、行政の責任をあいまいにして、事件の本質を隠ぺいしようとしている。
 【詐欺罪は不成立】
 2005年10月25日から27日かけてイー社からは、既に完成し検査済み証が発行されている物件については姉歯秀次元建築士が改ざんしたとの言及は一切されず、被告はグランドステージ(GS)藤沢の構造計算書が虚偽であると認識できなかった。
 27日のイー社との会合の前、被告はヒューザー設計部長が作成したメモをざっと見ただけであり、GS藤沢についての認識はない。
 GS藤沢の入金があった10月28日以降、被告がヒューザー資産を不当に流出させ、隠匿した事実は認められない。被告は10月27日、事実関係が明らかになるまでの間、全物件をいったん売り止めするよう指示している。
 多額の費用を投じて構造設計事務所に対し、姉歯物件の耐震強度の調査を依頼するとともに、耐震補強や免震によって建物の安全性を確保する方法の検討を依頼するなど、責任を全うするための種々の方法を模索していた。
 GS藤沢の購入者は10月28日の引き渡しを前提に住居を売却したり、引っ越しの準備をしており、売買契約上の信義則からして検査済み証も発行されている物件の引き渡しを拒むことはできなかった。被告は売り主の義務を全うしようと考え、10月27日午後、引き渡しを了承した。
 ヒューザーの財務内容からすれば、購入者をだましてまで約4億円を入金してもらう業務上の必要はなかった。むしろ物件の引き渡しをすることによってヒューザーは建設費について金融機関の借入金約7億円を返済しなければならず、資金繰り的にはかえってマイナスになる。

この要旨の中では、「10月28日の引き渡しを前提」とした購入者側や金融の動きに注目している点は、評価できる主張だと思います。

ただ、行政のシステムを批判しているためか、違法についての行政の処分がまごついていた点には触れられていないようです。行政の判断は、違法性の認識に重大な意味をもつ問題だと、私は思っています。どのタイミングで、どのような違法が、どのような深刻さをもつと判断されたのかという流れを、並行して検討しなくてはならないと思います。

ところで、検察側と弁護側で評価が正反対なポイントがいくつかあります。

事実に関しての問題は、どうやら、どちらも同じことを取り上げていて、その時の当人の認識を問題にしていますが、その評価が分かれています。これは、小嶋元社長が、どっちつかずだったため、どうとでもとれる発言が、いくらでも出て来てしまうからだと思います。(そういう発言が残ってしまっている点で、ダメな経営者だったのでしょうね)

次に、資金繰りについての評価が正反対です。金融機関からの借入に対してどのように対応するかという点を指摘しているのが弁護側。この返済を止めることができたかどうかが問題です。これに対し、検察側問題は、発覚後の瑕疵担保責任に対処する事で発生する損失を指摘しています。

時間的には、金融機関への決済が先にあり、それを止めるという決断ができなかったことが、悪循環のスタートになったように思われます。検察が問題視する買い戻しは、確定ではなかったし、そもそも、問題の物件の数もはっきりしていませんでした。対処方法も、あの時点では、様々な選択肢が残されていた段階でした。補強の可能性も残されていました。買い取りが唯一の方法ではありませんでした。

また、検察側に、「「解約しないといけないかな」と部下に尋ねたが「インターネット社会だからすぐに広まってしまう。当社は立ちゆかなくなる」と返答され」というくだりがあります。これは、評判が悪くなって営業が難しくなり、売れなくなることや、解約を心配してるのだろうと思います。それは、引き渡しの中止の決断をしなった経緯にはなりますが、違法物件への不適切な対応に関連づけたり、資金繰りの問題にすりかえることは難しいだろうと思います。
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by gskay | 2006-10-10 11:10