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行政の裁量の限界
三菱自動車の欠陥隠し・リコール逃れ事件の刑事事件で、興味深い判決が出ました。様々な反応があるようです。

東京新聞のサイトから引用しました。


三菱ふそう元会長ら無罪


虚偽報告事件
 三菱自動車(三菱ふそうトラック・バスに分社)の国土交通省への虚偽報告事件の判決公判で、横浜簡裁は十三日、道路運送車両法違反罪に問われた三菱ふそう元会長宇佐美隆被告(66)ら元幹部三人と、両罰規定で同罪に問われた法人としての三菱自に無罪を言い渡した。小島裕史裁判官は「そもそも国から被告側に法律に基づく報告要求があったとは認められない」とした一方で、同社がハブ破損による脱輪事故などの情報九件を隠ぺいしていたと指摘した。検察側は控訴の方向で検討するとしている。

 小島裁判官は判決理由で、争点となった道路運送車両法に基づく報告要求の有無について「報告要求は大臣の権限と法で定められているが、当時のリコール対策室の職員が大臣の代理として、または大臣の意思決定に基づいて報告要求した事実はない」と判断、「本件では法に基づく報告要求が存在したとは認められず、犯罪の証明がない」と述べた。

 一連の欠陥隠しをめぐり、横浜簡裁と横浜地裁で審理されてきた三つの刑事裁判のうち、最初の判決。ほかの二被告は、三菱自元上級執行役員花輪亮男被告(65)と元執行役員越川忠被告(64)。三被告と三菱自は起訴事実を否認していた。

 公判では、同社製大型車の車輪と車軸をつなぐ金属部品のハブが破損し、脱落したタイヤが歩行者を直撃した二〇〇二年一月の「横浜母子三人死傷事故」をめぐり、(1)同法に基づく報告要求の有無(2)同社側の報告または説明について被告側に虚偽の認識があったかどうか−が争われた。

 検察側は、リコール対策室について「(各種法令に基づいて)リコール関連業務を担当し、報告要求も所管する」と主張したが、小島裁判官は「報告要求は大臣の権限であり、直ちにリコール対策室に生じる権限ではない」と退け、被告らを無罪とした。

 一方、小島裁判官は、被告側の認識については明確に判断しなかったが、国交省に提出した同社の資料から、同社が摩耗量〇・八ミリ未満のハブの破損事例九件を隠ぺいしていたと認定。「九件には被告会社の主張する『想定の範囲を超えた』整備不良や過酷使用を疑わせるデータは存在しない」とも指摘した。

 判決によると、母子死傷事故の後、「リコールが適切ではないか」と見解を求めたリコール対策室職員に、同社は「ハブの破損は整備上の問題なのでリコールはしない。摩耗量〇・八ミリ以上のハブを交換すれば、通常の使用なら耐久寿命を確保できる」と回答した。

 三菱ふそうは〇四年三月、ハブの欠陥を認めリコールを届け出ている。

 三菱自動車の欠陥車をめぐっては、今回とは別に二つの刑事裁判が横浜地裁で継続中。(1)ハブの欠陥を放置して横浜母子三人死傷事故を引き起こしたとして同社元市場品質部長村川洋被告(60)ら二人が業務上過失致死傷罪に問われた裁判(2)クラッチ系統の欠陥を放置、山口県の運転手死亡事故を引き起こしたとして、同社元社長河添克彦被告(70)と宇佐美被告ら四人が業務上過失致死罪に問われた裁判。

リコール業務が適切に行われるべきであることは当然です。業者だけでなく、行政まで、そのやり方が、あまりに杜撰であるということが指摘されている判決だと思います。

法律に基づかない行政指導がまかり通ってきました。行政の裁量には、超越的に地位があたえられ、それが無謬であるとされてきました。しかし、もう通用しないのかもしれません。

リコール対策室は、安全の為に誠実に業務を行ったと主張するのかもしれませんが、デタラメなルールで押し通してきたために、かえって重大な問題の温床になっていた可能性もあります。

これは、耐震偽装の問題にも通じる問題です。

事件の重大さは変わらず、関係者の責任が否定されたわけでもないようですが、刑事的な罪を問う裁判としては、門前払いにあったようなもののようです。

また、弁護側が主張している「欠陥の認識」の問題は、技術的な議論が必要な問題であり、単純ではないと思います。疑わしい場合は、前向きに措置を講じておく方がいいと思われ、結果的には判断ミスだったと思いますが、その時点の情報の限界は見極めなくてはならないと思います。

これは、小嶋社長の裁判にもいえる問題です。安全問題については、問題を指摘した役所が、本当に適切に問題を指摘しているかどうかあやしく、後から責任逃れの論理を作り、責任転嫁をしていると思われるフシがあると感じています。

超越的な存在とされてきた行政が、機能不全に陥っているだけでなく、超越性さえも失いつつあるのだと思います。技術的な判断能力も陳腐になっているように思われます。

私は、行政が超越性を失うのは妥当だと考えています。そのために、国会があり、内閣があるのですから。

ところで、こういう行政当局のデタラメの後始末として刑事裁判を担当させられている検察に少し同情します。行政当局のルールがあまりにいい加減すぎて、検察にはどうしようもないだろうと思います。

同時に、いつも問題の火の粉がかからないところに退避してしまう行政当局については、いつまでも放置していていいのかと疑問に感じます。せめて、問題を立法に活かすために、国会が充分に調査を行わなくてはならないのではないかと思われます。罪を問うべきかどうかは別として、責任を明確にして、将来のために適切な仕組みを作っておくべきだと思います。

(追記)中日新聞に参考になる記事があったので、追加引用します。


検察側主張を一蹴


三菱自 虚偽報告で無罪

 「法律に基づく報告要求が存在したとは証拠上認めがたい」−。十三日、横浜簡裁で開かれた三菱自動車(三菱ふそうトラック・バスに分社)の欠陥ハブにまつわる虚偽報告事件の判決公判で、小島裕史裁判官は“スリーダイヤ”の系列トップだった宇佐美隆被告(66)ら三被告と法人としての同社に無罪を言い渡した。簡裁で約二年三カ月続いた異例の長期審理は広く注目を集めたが、判決は法律論に終始し、検察側の主張を一蹴(いっしゅう)した。 (小川慎一)

 裁判の争点のひとつは、国土交通省による同社への道路運送車両法に基づく報告要求があったかどうかだった。

 検察側は、国交省リコール対策室の職員が三菱自に限らず日常的にメーカー側とやり取りし、大臣の決裁を個別に受けることなく、報告要求を行っていたと主張。こうした行政と企業の関係の“実態”を根拠に、同室担当者が電話でリコールを実施する方向で、同社の担当者に再発防止策などの見解を求めたことについて「法に基づく報告要求だった」としていた。

 一方、弁護側は「大臣の権限による報告要求はなく、リコール対策室の報告の依頼は、法令上の根拠に基づかない行政指導だった。正式な要求なら文書でなされるのであり、今回のような口頭要求は、法的に無意味だ」と反論していた。

 判決は「当時の大臣が報告要求を行うことを意思決定し、同社に表示した事実はない。国交省職員が大臣を代理して報告を求めた事実もない」として、検察側の主張を全面的に退けた。

 もうひとつの争点は、同社から国交省への説明内容にうそがあったかどうかだ。

 検察側は、三菱自側がリコールを避けるため、「ハブの摩耗量が〇・八ミリ未満でも破損した事例を隠し、〇・八ミリ以上摩耗したハブさえを交換すれば、同種の事故は防げるとうその報告をした」と主張していた。

 弁護側は「ハブの破損は強度不足ではなく、過積載や整備不良が原因と考えられていた。交換基準も技術的な検討の結果で、虚偽報告ではない」と反論していた。

 判決は被告らが当時、ハブ破損の危険性などをどう認識していたかについては判断を示さなかった。ただし同社が自社に不利な不具合情報を故意に隠ぺいしたと認定。

 同社が同省へ提出した不具合情報の一覧から、摩耗量〇・八ミリ未満のハブの破損事例九件のうち、五件を削除し、一件は摩耗量を偽造、残り三件は具体的な数値を記載しなかった、と指摘した。

■傍聴席抽選に79人

 開廷前の横浜簡裁前には、用意された一般傍聴席四十二席に対し、ほぼ倍の七十九人が抽選に並んだ。だが、二〇〇四年九月一日に開かれた初公判では、百七十一人が列をつくっていただけに、約二年三カ月という“歳月”の長さも感じさせた。 (小川慎一)

by gskay | 2006-12-14 18:51 | 政治と役所と業界