正規雇用?
選挙とからめて取り上げているところは、良い着眼点だと感心します。しかし、「正規雇用」あるいは「非正規雇用」という用語の使い方に、私は疑問を感じます。「雇用」ということの意味や、社会保障の意義について、誤解を与えるのではないかと感じられる記事です。

Yahoo!ニュース - 産経新聞 - 【「まつりごと」の意味】(4)正規雇用は善? 政党の発想転換は可能か 


7月27日7時51分配信 産経新聞

 「人間関係で気を使うのが嫌で派遣社員を選んだ。別にこき使われているとは思っていない。年休もあるし、収入も贅沢をしなければ十分」

 新宿区内の商業施設で受け付け業務を担当している古川香織さん(26)=仮名=は、JR中央線沿線のアパートで1人暮らし。時間当たりの賃金の安さ、厳しい労働環境などが近年大きな社会問題となっている「非正規雇用者」の1人だが、世間で言われているほどの“悲哀”は感じたことがないという。

 古川さんは、北海道の農家の出身で、地元の高校を出て都内の調理師専門学校へ進学。専門学校卒業後、都内の飲食店に正社員として就職したが、人間関係に悩んで間もなく退職した。

 「居心地がすごくいい。嫌な先輩も上司もいない」と語るように、今の職場とは“相性”が良いため、3年前から勤務している。しかし、冒頭に述べたような理由で、正社員になろうとは今は思っていない。

 《総務省の労働力調査(平成18年平均)によると、パート・アルバイト・派遣社員などの非正規雇用者は全国で1677万人。特に14年には43万人だった派遣社員は、18年には128万人と約3倍に急増している》

 古川さんのように条件が比較的恵まれた派遣社員がいる一方で、非正規雇用者の「貧困」「格差」などが近年、大きな社会問題となっている。今回の参院選でも、非正規雇用者対策を各政党が重要政策として掲げているが、年金問題などの影響でかすんでいる観もある。

 「投票には行ったことがない。多少はテレビのニュースを見るので、税金がきちんと使われていないことには腹が立つ。ただ、今まで自分の生活の中に『政治』が反映された実感がないから…」。古川さんは、今回の参院選も行くつもりはない。

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 ベストセラーとなった「下流社会」(光文社新書)で「下流」という言葉を世間に定着させた消費社会研究家の三浦展氏(48)が、17年の郵政解散時の若年層の投票行動を独自に調査したところ、フリーターや「ニート」と呼ばれる「下流」層が、小泉純一郎前首相を支持して投票に行ったケースが多いという結果が出た。

 「小泉前首相は、普段は砂のような非正規雇用者を、サーカス(劇場型の政治)で組織化した。ただし、『おもしろそうじゃん』と、イベントとしてみせることに成功しただけ。彼らは決して政治への関心が高くなったわけではない。砂が固まるのは一瞬で、その後はすぐに流れていってしまうもの」

 さらに、三浦氏は「政党は基本的に『非正規雇用はかわいそうだ、みんな正社員にしましょう』と言っているが、この考え方自体がズレているのではないか。フリーターのままでいいという人もいる。彼女もいない、子供もいないのに正社員になる必要はないと彼らは考える」と指摘する。

 そうであるのならば、政党はこれまでの「正規雇用ありき」の発想を転換しなければならなくなる。

 三浦氏は「非正規雇用と正規雇用の間を自由に行き来できる、非正規でも安心して生活できる、というメッセージをどの政党が最初に打ち出せるか。このメッセージを打ち出した政党が、若年層をはじめとする非正規雇用者の大きな支持を得るだろう」とみている。

「正規雇用」とされる「雇用」では、企業や事業所である「雇用者」に社会保障の負担が生じます。しかし、「契約」であれば、それを免れます。「解雇」の煩わしさは、「契約解除」にはありません。そもそも、「非正規雇用」は、「被雇用者」のニーズから普及したものではないと思われます。それを、非正規雇用されている者にとってメリットがあるように書いている点が疑問です。

引用した記事で肯定的にとらえている「非正規雇用」の自由度を、正規雇用でも実現することは大切だと思います。しかし、「非正規雇用」そのものを肯定することはできないと思います。

「非正規雇用」は、雇用する側にはメリットがあるかもしれません。しかし、社会全体から見るなら、社会保障を脆弱にしかねず、経済全体にも悪影響をもたらしかねません。そこから目をそらし、「非正規雇用」の一面にすぎない個人の「自由」を賞賛していることに疑問を感じました。

ところで、建築などの業界では、職人や技術者がひとつの事業者となって最終的な現場で働いているケースが多々あります。私は、そこにも耐震偽装の発生の素地の一つがあったのではないかと思っています。複雑な下請けの仕組みが責任関係を曖昧にし、誰も責任をとらない仕組みが出来ていたように思います。

加えて、コストカットのしわ寄せを現場に押し付けるような仕組みになっていて、元請けは、大した管理もせず、リスクの負担もなく、そのような仕組みの上にあぐらをかいていたのではないかと思います。

職人が離職し、今度は、職人不足が賃金を上げていると言います。そのコスト上昇は、建築主や買い主に押し付ければいいのかもしれません。そういう中間に介在する組織にとっては、「非正規雇用」であるがゆえに利益を確保しながら存続できるのかもしれません。

中間に介在する組織にとってのメリットは大きいのかもしれませんが、「非正規雇用」される職人にとっても、消費者にとっても、必ずしも好ましいものとは言えないのではないかと思います。

さすがに、「正規雇用」にまでは踏み込んでいないものの、中間業者の排除という方向性を、ヒューザーは打ち出していました。責任の分散はしづらくなります。しかし、中間マージンが減る分、職人の取り分は多くなり、価格は安くなります。業界の構造そのものに挑戦するような企業戦略を打ち出した矢先に耐震偽装事件が発覚しました。

「非正規雇用」の集合体である建築業界は、システム自体が、高度な技術によって行われる建築に対応できていないように思われます。このような仕組みの問題点を、もっと直視すべきです。

それでも、「非正規雇用」のメリットがまさるというのであれば、「非正規雇用」の肩をもつべきかもしれません。複雑な下請けシステムも肯定すべきかもしれません。

しかし、私には、それを肯定できるような要素を見いだすことはできません。

また、建築業界のように、すでに「非正規雇用」の形態が一般的な業界ならまだしも、「正規雇用」と同じ仕事を「非正規雇用」でさせるというのは、弱い立場で働くことになるだけで、メリットなどないと思います。

肝心なのは、「正規雇用」に「非正規雇用」のような働く上での「自由」を確保することです。

(ところで、記事に取り上げられた「古川香織さん」の正規雇用時代の悩みは、非正規雇用によって解決したのではなく、職場を変わったから解決したというだけのことだと思うのですが……。非正規雇用を肯定する根拠にはなっていないように思います。)
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by gskay | 2007-07-27 10:37 | いろいろ