「明確なビジョン」?
どれほどアメリカでの評価が高かったのかはわかりませんが、引用した記事を発信している人の立場は、かなり明確であることが知られています。そう言う点を考慮しながら読まなくてはいけないと思います。

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「安倍首相、明確なビジョン示した」米では高評価

9月16日8時0分配信 産経新聞

 【ワシントン=古森義久】日本の民主主義やナショナリズムの研究を専門とする米国ジョージタウン大学東アジア言語文化学部長のケビン・ドーク教授は14日の産経新聞とのインタビューで、安倍晋三首相の辞任表明に関連して、安倍氏が米国では日本の歴代首相のうちでも「明確なビジョン」を持った指導者としての認知度がきわめて高く、米国の対テロ闘争への堅固な協力誓約で知られていた、とする評価を述べた。
 ドーク教授はまず安倍首相の約1年に及ぶ在任の総括として「安倍氏は比較的、短い在任期間に日本の他の多くの首相よりもずっと多くの業績を残したが、その点がほとんど評価されないのは公正を欠く」と述べ、その業績として(1)教育基本法の改正(2)改憲をにらんでの国民投票法成立(3)防衛庁の省への昇格−の3点をあげた。
 同教授は米国の安倍氏への見方について「米国では安倍首相への認知が肯定、否定の両方を含めてきわめて高かった。たとえば、森喜朗氏、鈴木善幸氏ら日本の他の首相の多くとは比較にならないほど強い印象を米側に残した。慰安婦問題で当初、強く反発したこともその一因だが、日本の今後のあり方について明確なビジョンを示したダイナミックな指導者として歴史に残るだろう。安倍氏が米国の対国際テロ闘争に対し堅固な協力を誓約したことへの米国民の認識も高い」と語った。
 ドーク教授は安倍氏の閣僚任命のミスなど管理責任の失態を指摘しながらも、「戦後生まれの初の首相として日本の国民主義と呼べる新しい戦後ナショナリズムを主唱して、国民主権の重要性を強調し、対外的には国際関与を深める道を選んだ。安倍氏が『美しい国へ』という著書で日本の長期の展望を明示したことは、今後消えない軌跡となるだろう」とも述べた。
 同教授はさらに「逆説的ではあるが、安倍氏の辞任表明の時期や方法も、それ自体が業績となりうると思う。健康上の理由、政治上の理由、さらには唐突な辞任表明での責任の問題もあるだろう。だが安倍氏が国民投票法など本来、まずしたいと思ったことを達成し、さっと辞任するという動き自体が今後の政治指導者の模範例となりうる」と語った。
 同教授はまた「現在の日本での安倍氏への評価は戦後の旧来の産業社会の文化や規範を基準としており、情報社会の文化基準を適用していないために、『戦後レジームからの脱却』などがあまりよく理解されず、支持されないのだろう」と説明した。
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 【プロフィル】ケビン・ドーク氏
 1982年、米国クインシー大卒、シカゴ大で日本研究により修士号と博士号を取得、ウェークフォレスト大、イリノイ大での各助教授を経て、2002年にジョージタウン大に移り、東アジア言語文化学部の教授、学部長となる。日本での留学や研究は合計4回にわたり、京大、東大、立教大、甲南大、東海大などで学び、教えた。著書は「日本ロマン派と近代性の危機」「近代日本のナショナリズムの歴史」など。

前半の部分は、何気なく読みました。関心を持ったのは、後半です。

「戦後生まれの初の首相として日本の国民主義と呼べる新しい戦後ナショナリズムを主唱して、国民主権の重要性を強調し、対外的には国際関与を深める道を選んだ。安倍氏が『美しい国へ』という著書で日本の長期の展望を明示したことは、今後消えない軌跡となるだろう」とされる部分よりも、「現在の日本での安倍氏への評価は戦後の旧来の産業社会の文化や規範を基準としており、情報社会の文化基準を適用していないために、『戦後レジームからの脱却』などがあまりよく理解されず、支持されないのだろう」という部分が、政治的には重要だったのではないかと思います。

理解されなかったとか、支持されなかったというより、そこが様々な政治的な抗争のポイントで、抵抗された部分だと思います。その抗争自体に負けたというわけではないようですが、これからという段階で終わってしまいました。私にとっては、拍子抜けです。

『美しい国へ』については、理念的なことで、どうとでもとることが出来るような話だと思います。しかし、『戦後レジームからの脱却』については、具体的な利害に直結していて、様々な抵抗が避けられません。その抵抗には、官庁や業界からはもちろんのこと、「旧来の産業社会の文化や規範」の担い手であるメディアによる抵抗も含まれています。

そもそも、官庁や業界、それにメディアが、陳腐なものになっていなければ、『戦後レジームからの脱却』などというものは提唱されなかったはずです。その「戦後レジーム」といわれるものの源流を作った人物の孫だけに、そこから得られるメリットは最大限に享受した上での主張ではないかと思います。利益を享受してきたことへの是非はともかく、何が本来の姿で、何が不健全になってしまっているかがわかっているからこそ、何とかしようとしていたのだと思います。

ようやく、公務員制度や行政組織に具体的に手が入りはじめたばかりでした。これについては、今後、迷走したり、立ち消えになったりしないことを祈るばかりです。官僚制度はしぶとく、官僚制度をとりまくように存在する業界も同様です。国民の手が直接届かないところで、利権がからんで厄介です。そのもっとも代表的な業界は、メディアではないかと思います。公共事業を担う業界を差し置いて、最も手強い存在です。

ところで、政治の仕組みについては、小泉政権以来の大きな変化によって、少なくとも、自民党については、「戦後レジームからの脱却」がかなり達成されています。かえって、憲法に則った仕組みに近づいていると思うことがあります。改憲という手続きを含め、憲法に忠実で、また、両院の選挙制度の違いや、地方政治、政治資金についても、理念に忠実な姿勢を貫ける環境ができつつあるように思います。(それに関する法律のほとんどの部分は、かつて、自分たちで作った仕組みですが……)

すでに、自民党は、「与党」であることを前提とする体制や、中選挙区時代の派閥政治から脱皮し、他の政党との考え方の違いを議論でき、議論の成果を選挙で問える政党になっていると思います。これは、参議院選挙によって、より明確になりました。(その結果、芳しくない選挙結果を甘じて受けなくてはなりませんが……)

あいにく、他の政党や多くの政治家、関係者をみると、必ずしも変化についていけていないのではないかと感じることがあります。とはいうものの、一番汚いと思われがちな政治には、意外に浄化作用があるようです。

それでは、官僚やメディアはどうなのでしょうか?

清潔であるはずの、官僚やメディアに問題があるように思えてなりません。

官僚もメディアも悪意はないのかもしれませんが、現状のような陳腐化を放置することは危険な水準になっていると思います。

「明確なビジョン」というのはおおげさで、曖昧なままです。具体的なものを提示する前の段階でした。曖昧なまま、「戦後レジーム」へと揺り戻される危険をはらんでいます。むしろ、反動さえ生じかねません。そこまでいかずとも、しばらくは、陳腐化した「旧来の産業社会」からの脱皮への歩みを早めることはできないのかもしれません。
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by gskay | 2007-09-19 13:09 | 政治と役所と業界