構っていられない
入手できた範囲で、控訴審に関連して詳しく伝えていると思われたのは、東京新聞です。東京新聞では、独自のフォローが続いているようです。ユニークな記事だと思いました。


姉歯被告 二審も実刑 耐震偽装『損失、影響は甚大』


2007年11月7日 夕刊
 耐震強度偽装事件で、建築基準法違反や議院証言法違反(偽証)などの罪に問われた元一級建築士姉歯秀次被告(50)の控訴審判決で、東京高裁は七日、「マンションを購入した者に対する経済的損失、精神的苦痛などの影響は甚大」として、懲役五年の実刑、罰金百八十万円とした一審東京地裁判決を支持、姉歯被告の控訴を棄却した。

ここまでは、他のメディアと大差はないように思われます。

 原田国男裁判長は「偽装物件の住民に多大な損失を与えることが十分に予測できた。社会に大きな混乱と不安を招き、いまだその影響は引き続いている」と指摘。「結婚生活を夢見てマンションを購入したが、精神的に落ち込み、結婚にすら踏み切れなくなった」などと住民の悲痛な叫びを読み上げた。

この点は、その通りだと思います。

 弁護側は、構造計算書を偽造した建築基準法違反の罪は認めたが、偽証については「記憶が戻っていなかった。故意にうそをついたわけではない」と主張。

ここは、争点のひとつだったと思います。

 「社会的に処罰感情が強い偽造は、罰金刑しかないので罪の重い議院証言法違反で埋め合わせようとした」と実刑は不当と訴えたが、判決は「耐震偽装と偽証は密接に関連している。偽装問題の重要性を同法違反の量刑で重視しなければ、本質を見失う」と指摘した。

争点に対応する形で、量刑の根拠が示されています。問題は、偽装による違法建築が登場したことだけではなく、その後始末のプロセスを混乱させたことにあります。そのあたりが曖昧だと感じる部分ではあります。

 判決によると、姉歯被告は二〇〇三年二月から〇五年二月にかけ、マンション四棟とホテル二棟の計六棟の構造計算書を偽造し、耐震強度を偽装した建物を建てた。〇五年十二月の衆院国土交通委員会では最初に耐震偽装した建物や、木村建設(熊本県、破産)の元東京支店長からの圧力が理由だったと偽証。また、元建築デザイナーに一級建築士の名義を貸した。

ここは、引用から省略しようかと思いましたが、衆院国土交通委員会のどういう会議の席での偽証であったかを明記するべきだったのではないかと思います。その点を指摘したくて引用することにしました。


判決にも微動だにせず
 「四十年以上働いて築いた財産のほぼすべてを、最後の生活の場に選んだ偽装マンションにつぎ込み、不安にさいなまれている」「新居での結婚生活を夢見ていたのに、婚約者との結婚にも踏み切れなくなった」…。判決では、姉歯被告によって人生が狂わされた被害者らの苦渋の思いが次々と読み上げられていった。

この点は、そうだと思います。後半への伏線としても、なかなか工夫された構成だと思います。

 グレーのスーツに紺色のネクタイをしめた姉歯秀次被告は、被告人席に座り、じっと目線を下に落としたまま。「耐震偽装は殺人と変わらない」と住民の声を引用した裁判長の言葉にも、口を結び、微動だにせず判決を聞き続けた。

「殺人」ということに関しては、一般の声としてはわからないものではありません。でも、問題は、やはり重大な違法性をかかえた「違法建築」そのものだと私は考えています。実際のところ、反省がないと被告を非難する際に引用される「震度5で倒れなかった」という事実を考えると、法の根拠の方もあやしいと思います。しかし、重大な違法について司法が断固とした態度をとることには異存はありません。国会の調査の混乱と関連づけると、論旨が感情的ではなく、論理的になったのではないかと思います。

 判決は「木村建設の元東京支店長に責任を押しつけようとしたことが直接の偽装の動機で、一級建築士が最初の偽装を失念することなどあり得ない」と断罪。それでも、姉歯被告は最後まで無表情を続けた。

この部分は、偽証についての断罪だと思います。耐震偽装そのものの裁判についての報道だと思って読むとわからなくなると思うポイントです。

これ以降が、この記事のすごいところだと思います。


住民『生きるので精いっぱい』
 「許したわけではないが、生きていくのに精いっぱいなんです」。国の支援で、再開発事業による初の建て替えが決まった「グランドステージ(GS)茅場町」(東京都中央区)の管理組合の女性理事(49)は「姉歯被告に構っていられない」と打ち明ける。

私も、そう思っています。ちなみに、「国の支援」はもちろん、自治体や地域の支援を忘れるわけにはいかないと思います。

 偽装が発覚したのはちょうど二年前。マンション再建に奔走した。東京・銀座で経営していた料理店は売り上げが激減し、閉店に。睡眠薬を手放せない夜はいまも続く。マンション住民が抱える負債は平均五千万円を超える。
この段落の前半については、とても残念です。それだけのクオリティーの店でした。そういう店でも、経営者がこういう事態にまきこまれると、ダメになってしまうというのは衝撃でした。自分自身に振り返ってみて、たしかに業績が低下しました。他の人はどうでしょう?

さりげなく、負債については、「安物」という風評にクギがさされているように思います。

 「購入した私たちにも責任はあるが、確認検査を民間に託した国の責任はどうなったのか。信じられる国であってほしい」。マンションは隣接する事務機器販売会社の子会社ビルと一体化した再開発ビルとして建て替えられる。二〇一〇年十一月の入居予定だ。

所有者としての責任には正面から取り組んできました。だからこそ、関係者の責任にも言及できるのだと思います。

後半の再開発については、私は、優れた方向性だと思っています。被害の回復というより、公共性が前面に出た対応へと発展しています。自治体と地域の後押しのおかげです。

 半年前、同じ区内に新たな料理店をオープン。「無我夢中で走ってきたけど、今は、住民全員がペットの名前まで言える関係になった。都会では隣の人すら知らないのにね」と表情が和らいだ。

私は、業績がふるわなかったことで、新たな道に踏み出すことになりました。業績がふるわなかったことは、悔しいことですが、新しい方向性を見いだすきっかけにはなっています。

コミュニティーについては、昔の長屋のような感じ。それが、仮住まいでバラバラになって暮らしています。

 同様に国の支援で建て替えが決まったGS住吉(江東区)の男性会社員(44)は「判決は関係ない。くよくよしている時間はない。早く建て直してマンションに戻りたい」と力を込める。
 耐震偽装に続いて、消費期限表示などの「食品偽装」も相次ぐ。「感覚がまひし、罪の意識を感じていないのでは」とやり切れない思いだ。マンションは〇九年三月に完成する予定。「住民とはしょうゆを貸し借りできる仲になった。事件を機に、かけがえのない人たちと出会えた」

住吉は、ヒューザーにしては規模が大きな物件です。規模が大きいということが調整などの障害になっているかもしれませんが、多くの人が集まるという点では、力にもなるのではないかと思います。

 愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」は今年四月、約一年五カ月ぶりに営業を再開した。公的支援は導入されず、約七億円の工事費はすべて自己負担となった。
 中川三郎社長は、建築確認を出した愛知県などを相手に損害賠償を求めて提訴している。
 「事件の真相がはっきりしないまま控訴審が終わった。姉歯被告の個人犯罪にしてしまったが、最終的にお墨付きを与えた行政の責任はどうなるのか。事件はまだまだ終わってはいない」

この社長は、裁判で損害を取り戻すべく奮闘しているようです。耐震偽装がなぜ生じ、それがどのような重大性があると位置付けられ、どのように処理されるべきかというシステムが、全くデタラメであったことについては、元建築士の刑事裁判は触れていません。それは、この社長が、損害の回復をめざした裁判の中で明らかにしていくことになるのだと期待します。


上告、今後考える
 姉歯秀次被告の話 判決については何も申し上げられない。上告するかどうかはこれから考える。被害者の方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。


長い記事でしたが、記事や内容に対するコメントを加えながら引用しました。少し、同じような文が重複しているのが気になりますが、取材元への気配りも必要なのだろうと感じました。

前半では、被害者となった住民の苦しみが訴えられています。しかし、そこで時間が止まってしまっている訳ではありません。後半で、その後の住民に光をあてて記事を構成しているところに敬服します。

また、ホテルの社長が取り組んでいる裁判の意味を改めて考えさせられる記事だと思います。

後半の住民からのコメントは、自分の実感にあっていると思います。前半に取り上げられた苦しみの方が、一般の読者には受け入れやすいかもしれません。しかし、元建築士に対し、「構っていられない」ということに共感します。目を背けているわけではなく、彼との関係は、その程度のものだったというのが実態です。

彼への処罰は、国がすること。彼に憎悪をぶつけ、責め続けることでは、私たちは救われません。事態を乗り切ることが優先です。

また、被害者である住民を引き合いにだして、社会的な処罰感情を肯定することには抵抗があります。そこに、私たちの感情が集中しているということは、断じてありません。もっと本質的なことや、気付かずに放置されている落とし穴や、意図的に歪曲されていることへと、問題意識をもっていかなくはなりません。
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by gskay | 2007-11-08 03:27 | メディアの狂騒