『DAVE』
昔観た映画です。久しぶりに観ました。内容は忘れていたので、はじめてのようなものです。この映画は、大統領と瓜二つの容姿をかわれて大統領の替え玉となった主人公が、脳卒中で倒れてしまった本物の大統領の代わりを務めるという設定の喜劇で、政治を風刺したコメディーです。

チャップリンの『独裁者』などと似ている部分もあり、「入れ替わり」という昔ながらのオーソドックスな設定です。また、アメリカの民主政治の理想のようなものを描いている点は、『スミス都へ行く』とも似ていると感じました。

ところで、『独裁者』でも、『スミス都へ行く』でも、演説シーンがクライマックスという舞台設定が共通しています。ただ、『スミス都へ行く』では、演説は内容よりも、苦悩のすえのフィリバスターによる不正告発のための抵抗でした。フィリバスターは、民主的な議会内の戦術として肯定されていて、それが世論をかえていく様子を描いています。これに対し、『独裁者』では、チャップリンの理想が語られる場面となっています。観る人は、そのメッセージの中身に耳を傾けることになります。

『DAVE』でも、演説シーンがクライマックスです。選挙で選ばれた本物よりも、偽物である替え玉が善政を行い、それが高く評価されるものの、本物が犯したスキャンダルで窮地に追い込まれてしまい、クライマックスである議会での辞任演説へ。ここで、この映画の主題が明らかにされます。

「大統領というのは、国民に一時的に雇われただけだという立場を忘れていた」

大統領への尊敬は、無条件であり熱烈です。権威は絶大です。このため、本来のあり方が見失われしまうことがあるのかもしれません。これは、選ぶ側も、選ばれる側も。

その危険性を、この映画が指摘しているように思います。さらに、良い大統領を選ぶ仕組みとして、本当に大衆の支持を反映するような選挙で良かったのかどうかを考えさせられます。

そして、何より、なぜ、偽物の方が、本物よりも善政が行えたのか?

ここは、勘違いしてはいけないポイントで、たまたま善政を行うことができる人材が替え玉になっただけのことだと思います。たいていは、ダメなのだと思います。選挙での選出が悪いとは、この映画は主張していません。

明示とはいえないものの、主人公が、政治を志して選挙に出るという最後のシーンによって、政治を志すべき人が、政治を志し、選挙に挑戦することによって、アメリカの民主政治の理想を保つことができるということを示しているように思います。

『独裁者』も『スミス都へ行く』も名作ですが、『DAVE』はさらによく出来た映画かもしれないと感じました。ただ、そこまで考えて観ている人がいるかどうかが微妙です。その点で、『独裁者』の直接的なメッセージや、『スミス都へ行く』が与えるインパクトにかなわないのかもしれません。

蛇足になりますが、『DAVE』の演説シーンには、「一旦、スキャンダルが問題になると、それ以外の議論はできなくなるものだ。だからこそ、スキャンダルについて話しあわなくてはいけない」という一節がありました。政治の理想とは別のレベルの真実だと思います。スキャンダルに上手に対処することは、政治をすすめるために必須のことだと思います。

また、前後する時期に、『アメリカンプレジデント』という映画も作られています。こちらも、演説がクライマックスですが、少し様子が異なります。演説の中身は、今日にもつながる具体的な政治問題です。しかし、これは、ストーリーの中では、決して主題でも、主張したい内容でもありません。

テレビドラマの『ホワイトハウス』の原点になったとされる映画ということで、『アメリカンプレジデント』の方が、「大統領もの」映画ではポピュラーですが、シンデレラストーリーの舞台にすぎないと思います。『独裁者』や『スミス都へ行く』と比較するべき映画ではなく、むしろ、『プリティーウーマン』の系譜に位置付けるのがふさわしいように思います。

さて、『DAVE』の演説シーンは、アメリカ政治や英語にあまり詳しくない私がみても、昔の大統領の演説のパクリをつぎはぎにしているとわかるくらいです。しかし、それが価値を損ねているというわけではありません。つぎはぎであるがゆえに、かえって、アメリカの民主政治の理想や現実が凝縮されているように思います。

「I had to care more about what's right than I do about what's popular.」
(何が人の気をひくのかということよりも、何が正しいものなのかということに心を配るべきだった……とでも訳したらよいのでしょうか?……これには、オリジナルがあるのでしょうか?)

この演説シーンの最後のメッセージです。このような理想は、確実にそれを実現する仕組みなどないのかもしれないと思いました。ひとりひとりの政治家や、ひとりひとりの国民の自覚と不断の努力だけが、その理念を実現できるような気がします。

政治コメディーですが、かなり重大な主題から展開していることに、今回、はじめて気付きました。
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by gskay | 2007-11-24 03:22 | いろいろ