リコール
住宅や建物の欠陥と、自動車の欠陥では、似ている部分もあれば、異なる部分もあります。似ている部分としては、安全に関して、公的な基準や取り締まりの対象になっていることがあげられます。一方、異なっている部分としては、住宅や建物は、各戸ごとに異なっていると考えられていて、対応は個別的です。これに対して、工業的に大量生産される自動車は同じ型であれば、同じものだと考えられていて、対応は車種ごとになります。
欠陥隠しとして問題になった三菱の問題は、不具合や事故の報告を元に危険を予知することができたかどうかということが本質だろうと思います。個々の不具合や事故から、その車種に潜む問題を見抜くことができたかかどうかという問題です。それが、その後の対応の前提になるからです。 この問題には、設計をした人、製造した人、販売した人、使用する人に整備をする人、それに検査をする人と多数の関係者がいます。そうした複雑な仕組みを直視せず、行政当局も、司法もマスコミも、事件の責任の所在を「虚偽の報告」という点に求めているように思われます。これについては、「虚偽」ということで、高度な技術が関わる問題を処理して良いのかどうか疑問です。少なくとも、技術的な問題についての決定的な説明を見つけることは、私にはできませんでした。 ところで、「リコール」という制度がないがしろにされていた点については、厳重な処分が行われることは大切なことだと思います。個別に処理されることが前提となっている住宅とは、異なる事情です。自動車については、「リコール」という制度が的確に運用されなかった点について、きちんと検討されることを期待しています。 三菱内部のデータの取り扱いについては、不確実なデータをどのように取り扱うべきかということが問われています。有罪と判断された三菱の「市場品質部」というのは、本来、そのようなデータの中で不利なデータを積極的に取り上げるのが任務だったのではないかと思いますが、単なるリコール逃れのための言い訳を考えるチームになっていたのかもしれません。 確かに、リコールを見つけると、それは会社の負担を増やすことにつながります。任務を全うし、リコールにつながるようなデータをみつけてしまうと、会社にとっては迷惑だったのかもしれません。むしろ、それをうまく誤摩化し続けるのが「市場品質部」の腕の見せ所になっていたのかもしれません。 不具合のある商品を送り出してしまったことの責任を追及するのが、「市場品質部」の本当の腕の見せ所だったはずです。「リコール」という形で、対応する筋道まで用意されているにもかかわらず、方向性を間違えてしまったのだと思います。
事件の重大さと複雑さを考えると、何が争点なのか、的確に説明している記事は少ないように思います。単に、三菱というけしからん会社の関係者を罰するべきだという判決として報道する傾向になっているのではないかと懸念します。 ところで、昨年12月の横浜簡裁の判決をうけての控訴審も行われています。
この裁判では、検察側の主張は、「官僚の無謬」を前提にしていて、行政がおかした不適切な手続きについて目をつぶっているのではないかと思います。 重大な不具合がある製品を送り出した責任は問われるべきです。しかし、問われている事情には、国土交通省の対応の杜撰さも関わっています。かつて、「揺れるマンション」顛末記 : 行政の裁量の限界というエントリで取り上げた問題ですが、高裁の判断がどのようなものになったにせよ、最高裁まで争って決着をつける必要がある裁判だと思います。業者に対する行政当局に与えられた権限と責任を明確にしなくてはならないからです。 行政の裁量の正当性を認める判断もありうると思います。その場合、私たちは、「御代官様のお気持ち次第」から逃れる方法が無くなる可能性があります。 自動車の「リコール」制度についても、建築の安全についても、その意義は尊重されるべきです。しかし、その運用にあたっては、「御代官様のお気持ち次第」がまかり通るような状況を作ってはいけません。
by gskay
| 2007-12-16 08:10
| 政治と役所と業界
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耐震偽装発覚から、5年。建て替えが再開発事業としてすすめられています。
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