ホテル業者による行政への賠償請求
耐震偽装では、建築確認という制度の責任や意義が大きなテーマのひとつです。強力であり重要な手続きであるにもかかわらず、その責任の範囲は曖昧です。特定行政庁は、自らが出した建築確認であっても、自らの使用禁止命令などによって実質的に否定できる一方で、自らが出した建築確認に対する責任は負いません。

その「誤った」建築確認がなければ、問題の建物は建たなかったはずですが、その点は、問題として取り上げられてはきませんでした。

中日新聞:耐震偽装で愛知県を賠償提訴 姉歯物件のホテル業者、2億7000万円求める:社会(CHUNICHI Web)


耐震偽装で愛知県を賠償提訴 姉歯物件のホテル業者、2億7000万円求める

2008年8月20日 朝刊

 耐震強度偽装事件に巻き込まれ、ホテル改修を余儀なくされたのは、愛知県の建築主事が建築確認で偽装を見抜けなかったためとして、ビジネスホテルのアズイン大府(同県大府市)を運営するフリックイン福井(福井市)が、愛知県に約2億7000万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。

 訴えによると、同社は2003年3月、設計会社を通じて県に建築確認を申請。適合の判断を受けて着工し、同年11月にホテルをオープンした。

 しかし約2年後、元一級建築士姉歯秀次受刑者(51)=建築基準法違反罪などで実刑確定=による耐震強度偽装が発覚。姉歯受刑者が構造設計を担当していた同ホテルは、改修と06年6月までの休業を余儀なくされた。

 原告らは「建築確認で柱に必要な鉄筋量を満たしていないことは簡単に分かったのに、十分に検査せず偽装を見過ごした」と建築主事のミスを指摘。改修費と約7カ月間の休業補償を求めている。

 県建築指導課は「建築確認に必要な手続きや適切な対応をとっており、過失はない」としている。

住民によっておこされている裁判も同じですが、簡単な裁判ではないと思います。実際に発生してしまった損害に対し、どうように負担を分担すべきかという問題で、関係者の納得が第一です。何を争点にするかを絞り込まなくてはいけません。

建築確認における「過失」の有無について問う裁判になる様子です。「偽装」を見逃したことが過失によるかどうかを論じることは、事の本質に迫るアプローチではあるものの、民事の問題としては難しい問題になるのではないかと思います。

当時の仕組みでは、元建築士が行った偽装は、建築確認の前に設計会社がまとめ、その設計会社の責任で図書が提出されているのであり、誰が下請けで構造設計していようと関係がないばかりか、故意の偽装があったかどうかも関係なく、建築確認では、設計会社の設計が適法であるかどうかだけが問題になります。

不適切な設計が提出されていたにもかかわらず、それを見逃したことが問題であり、そこに偽装があったかどうかとは別の問題として考えると問題は単純になるように思います。記事のように、偽装を見過ごしたことを問題にするのではなく、問題を広くとらえて、適法でない設計を適法と認めてしまったことを問題にすべきだと思います。

また、適法でない建物ができてしまった全責任が建築確認のための検査の誤りにあるとはいえないものの、建築確認が適切に行われていれば、このような形で違法建築が生まれることがなかったという点を重視すべきだと思います。どのような連帯責任として考えるべきかが問題になると思います。

ただ、特定行政庁が責任を逃れる方法はいくらでもあります。元建築士の故意の偽装は、設計会社や特定行政庁、建築主などを欺くために行われたものだと主張することができるからです。この場合、偽装が簡単に見抜けるものだったら、特定行政庁の責任を追及できるかもしれませんが、なぜ、設計段階や建築主が気付かなかったのかという問題にもなるので、微妙です。一方で、とても高度であったなら、不可抗力ということになります。

肝心なのは、損害の分担をどのように考えるかだと思います。県が、徹底的に争う構えなのか、それとも、法律ではっきりと定まっていない部分についても賠償に応じるために、判決によるお墨付きを必要としているということなのかかわかりません。

ところで、耐震偽装の後始末については、耐震性能が基準以下かもしれませんが、適法としてしまった建築確認の意義を認め、既存不適格とみなして耐震補強が必要な建物と同じに扱うこともできたのではないかと思います。そういう捉え方をしていれば、一連の出来事は、全く異なるものになっていただろうと思います。

耐震基準については、これから作られるまだできていない建物にこそ適用されるべきで、取り締まりの基準として用いることが妥当であったのか考え直してみる必要もあると思います。そう考えると、行政の対応についても、裁判についても、全く違ったあらすじを書く事が可能ではないかと思います。
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by gskay | 2008-08-30 02:17 | 損害と回復