基準のあてはめかた
同じ基準を当てはめるにしても、建物を作るプロセスにあてはめるやりかたと、出来てしまっている建物にあてはめるやりかたが、同じである必要はなかったと思います。基準の当てはめ方に無理があったために、耐震偽装の発覚後の対応がギクシャクしたのだと思います。法が想定していない出来事に対し、拙速に過剰に対応し、損害を増やしました。

一方で、そのことについては、一向に反省がされておらず、法の改正でも、全く配慮されませんでした。改正後の法律は、建物を作るプロセスでの手続きを煩雑にし、負担を増やしただけで、安全や安心には寄与していません。すでに出来てしまっている建物への対応方針は、想定外のままです。

ところで、欠陥住宅問題の中で、耐震偽装のユニークな点は、建物の欠陥による「実害」が出ていない事です。多くの欠陥住宅は、実害が出ているにもかかわらず、適切に対応されていないことが問題です。これに対し、耐震偽装では、通常の生活には不都合はありませんが、「違法」ということで、過剰な対応が行われ、その対応が損害を生んでいます。

地震での倒壊の「可能性」だけでは、実害ではありません。倒壊しないというシュミレーションが示されていないということであって、倒壊して実害をもたらすかどうかは別の問題です。「違法」という問題はあっても、まだ実害は生まれておらず、損害という実害が生まれたのは、公的な判断や処分、手続きがなされてからです。

これは、とても特殊な出来事だったと思います。災害が発生してからでは遅いとはいえ、それが損害の発生の免罪符にはならないと思います。他にも対応の方法があったからです。

今でも、あの時、特定行政庁は使用禁止命令を出さない判断ができたのではないかと思っています。既存不適格と同等に扱っても良かったのではないかと、ずっと考えています。

使用禁止の処分は、耐震強度が足りない既存不適格の古い建物と比べたときに不公平で、使用禁止命令がでた耐震偽装の建物からみても、古い建物からみても、不満が出る対応です。

使用禁止命令が出てしまってからの手続きについては、どのマンションも処分に不服を申し立ててはいないと思うので、適切だとは思います。ただ、もし、倒壊しないというシュミレーションを出して、耐震強度の計算値を適法な水準にすることができれば、使用禁止命令をくつがえすこともできたと思います。しかし、当時は、もっと低い数値を算出してしまって、あわてていたのがほとんどではないかと思います。数値の技術的な評価について誤解していたように思います。

うちのマンションでは、区からの使用禁止命令は異なる意義を求めて出されたと説明されているので、これには納得しています。しかし、他の物件では、そうではなかったと思います。なぜ、あの時、あのような過剰な処分や対応が考えられ、受け入れられたのか、よくわかりません。それが、今は改まっているかといえば、それも疑問です。

出来てしまっている建物に、建築基準法への違反が発覚した場合、その違反の原因を作った関係者の処罰は厳格に例外無く行うべきだと思います。

しかし、出来てしまっている建物については、通常の使用で危険があるわけではないなら、不適格ではあるものの、適切な是正方法を模索する余地が必要だったと思います。

存在してはいけない建物で、存在が望ましくない建物かもしれませんが、すでに存在してしまっているという点を重視して考えるべきだったと思います。その建物が出現する経緯には、公的な建築確認や検査が行われていたという事実も無視してはいけないと思います。

既存不適格とみなされるケースなら、不適格となった経緯はともかく、耐震強度がいくら低くても、それだけで使用禁止命令が下されるようなことはないと思われます。公共的な建物でさえ、耐震強度が低いまま使われていることが少なくありません。そのような事情を考えて現実的な対応を考えていたなら、全く異なる対応があったと思います。

不安をあおるような言説がまかり通っていたことが背景にあり、冷静に反省したところで、無意味かもしれません。しかし、その後の法律の改正においても、基準の意味を改めて問い直すようなことはありませんでした。

基準の適用の方法次第では、損害が生まれてしまうという状況を想定していなかったことを反省し、その対応を法律の改正では盛り込むべきだったのではないかと、今になって、残念に感じます。

今は、金融危機によってかすんでしまっていますが、もう1年以上も、我が国の建築は、法改正でもたらされた不適切なシステムによる停滞が続いています。抜本的には、何も前進していないと思います。

一方で、不安をあおるような言説がまかり通る風潮も変わってはいないように思います。法律改正は、そこに一石を投ずるチャンスでもありました。

ものの見方を根本的に変えることができるような機会を逃してしまっていたことを残念に感じています。
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by gskay | 2008-10-11 00:00 | 公的対応