カテゴリ:損害と回復( 79 )
元建築士への賠償請求
すでに一ヶ月以上が経ちますが、耐震偽装を行った元建築士を相手取った裁判で、被害にあった元住民が勝訴したという報道がありました。訴えていたのは、いち早く建て直しを行った物件で、建て直しのコストを最小限にしつつ、後から回収できるものを回収するという方針をとっているようでした。

勝訴によって得た権利をどのように行使するのかわかりませんが、損害の回収を着実に進めているのだと思います。

私たちの物件では、きちんと資金についても目処をたててから建て直すという方針をとっていたため、時間がかかっています。対照的な対応だと思います。

これには、住民の考え方以上に、担当する自治体の姿勢が関係すると思います。

私たちも、資金について考えるにあたり、関係者からの賠償も考慮はしました。しかし、元建築士からの賠償を裁判で勝ちとっても、その賠償を回収するのは難しいと判断しました。このため、裁判をしてはいません。

「耐震偽装による建て直し」ということで、ひとくくりにされがちですが、建て直しは、それぞれ、全く異なる方法で行われており、それぞれが、今後の参考になると思います。しかるべき検証が必要だと思います。
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by gskay | 2010-10-31 05:15 | 損害と回復
札幌の判決
札幌のマンションの耐震偽装の問題で、販売した住友不動産を相手取って住民がおこした裁判の判決があったそうです。

強度不足という法令違反と、「高い耐震性能」といううたい文句が問題になっていたようです。

補修可能という住友側の主張は、技術的には正しいのかもしれません。しかし、それが、不適切な販売を許す根拠にはならなかったようです。

耐震強度不足マンション、分譲側に代金返還命令 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


札幌市の元2級建築士による耐震偽装問題を巡り、耐震強度不足が明らかになった同市中央区の分譲マンションを購入した11世帯14人が、分譲した住友不動産(東京)に、売買契約の取り消しや売買代金の返還を求め、計約4億1000万円を請求した訴訟の判決が22日、札幌地裁であった。

 橋詰均裁判長は同社に対し、原告1人当たり616万〜4740万円の支払いを命じた。

 同問題は2006年、札幌市の聞き取り調査に対し、元建築士がマンションの構造計算書の偽装を認めたことで発覚。耐震強度不足が21物件で確認され、元建築士は同年、建築士免許を取り消された。

 今回判決があったのは、強度不足だったマンションの一つで、地下1階、地上15階建て。原告らは03〜04年に売買契約を結んだが、市の調査では耐震強度が基準の86%だった。住友不動産は補強工事の準備を進めているという。

 原告側は「販売前のパンフレットに『新耐震基準に基づく安心設計』などと記載され、法令基準よりも余裕を持たせた耐震性能があると販売担当者から説明を受けた。消費者契約法違反(不実の告知)に当たり、契約は取り消せる」と主張。

 これに対し、同社は「構造瑕疵(かし)は軽微で、機能性を損ねることなく容易に補修が可能。消費者契約法の要件は満たさない」と請求棄却を求めていた。
(2010年4月22日15時41分 読売新聞)


私は、当然の判決だと思います。ただ、判決までに長い時間が……。

これだけの期間、裁判に関わっていた住民の方々は大変だっただろうと思います。

まだ判決が確定したわけではなく、住友側の控訴も考えられます。また、この判決が確定した場合でも、返還をうける権利が認められたにすぎず、実際の支払いまでには面倒なことも少なくないと思います。

このマンションでは、住友不動産という大きな会社が販売元でした。ヒューザーのように破産してしまうような心配はないかもしれませんが、だからといって、トラブルへの対応が住民にとって楽になるということはないように思います。大きな会社が相手の場合では、それに応じた苦労が必要になるものと思います。

大きな会社からの購入でも、トラブルがないとは言い切れず、大きな会社からの購入でも、対応がスムーズということもないというのが実情だと思います。結局、相手次第で、個別の対応が必要になり、それぞれ大きな苦労を背負うことになるのだと思います。

ところで、補修して住み続ける方がいいという住民もいるかもしれません。このような判決は、全ての事例に無理にあてはめるようなことは控えた方がいいだろうと思います。
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by gskay | 2010-04-26 01:57 | 損害と回復
「普通」の確定申告
耐震偽装による雑損控除の繰り越し期間が昨年までだったので、今年は、所得税の確定申告で雑損に頭を悩ませる必要がなくなりました。

昨年までは、税務署に出向いて、担当者と相談し、指導を受けながらでないと申告ができませんでしたが、今年は楽勝。国税庁のホームページで作成し、プリントアウトして、捺印して郵送。

電子申告は、その準備が面倒くさそうなので、印刷して提出する方法を選びました。

このシステムができてからはじめての利用ですが、とても良く出来たシステムだと思いました。

電子申告だと入力した内容が税務署のデータベースに直接読み込まれるのだろうと想像します。これに対し、印刷して提出する申告では、もう一度入力しなおしているのでしょうか?どうせスキャンするだけだろうから簡単だと思いますが、印刷された書類に固有のIDやバーコードなどをつけ、それを読み込むことで内容が呼び出せる仕組みにすればいいのにと思います。その上で、手書きの修正などがあったなら、修正すればいい。

アメリカのビザを申請する時のシステムは、ホームページ上で申請書を作成し、それを印刷しサインをして提出します。バーコードが印刷され、それをスキャンすることで、内容を呼び出しているようです。領事との面談があり、手書きで訂正されていたり、必要な訂正が見つかった場合には、ここで手入力で訂正しているようでした。

日本では、なかなかコンピューター申請がなじまないことを残念に思っていましたが、実は、しっかりとやっているところではしっかりとしていることがわかり、安心しました。
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by gskay | 2010-03-01 03:25 | 損害と回復
ヒューザー破産管財人が控訴を取り下げ
あまりに長く放置していたので、再開のきっかけがつかめずにいました。仕事が新たなステップに入り、今までの仕事の整理をしなくてはならず、忙しくしていました。

ところで、久しぶりに、耐震偽装関連ニュース。ヒューザーが、自治体や検査機関を相手に起こした裁判の控訴が取り下げられたというニュースです。破産管財人が引き継いでいました。

ヒューザーが控訴取り下げ 耐震偽装損害賠償訴訟 - MSN産経ニュース

2010.1.8 18:02
 元1級建築士らによる耐震偽装事件に絡み、建築確認の際に偽装を見落としたため損害を受けたとして、耐震偽装マンションの販売元「ヒューザー」(破産)が、建築確認を行った東京都や横浜市など9自治体や指定検査確認機関2社に、計約50億円の損害賠償を求めた訴訟について、ヒューザー側が東京高裁への控訴を取り下げたことが8日、分かった。東京高裁によると、取り下げは7日付で、訴訟はこれで終結した。

 訴訟をめぐっては、東京地裁が昨年7月、ヒューザー側の訴えを棄却していた。

全く勝ち目がないとは言えないと思います。破産管財人は、債権者への配当を増やさなくてはならない責務があるので、全く勝ち目がないわけではないなら、訴訟を続けるのが本来だと思います。

この方針についての破産管財人からの説明のようなものは受けてはいませんが、私は、異論をたてたりしないつもりです。おそらく、債権者である多くの住民も同じような姿勢ではないかと想像しています。

建て替えにしろ、補強にしろ、自治体の関わりが欠かせませんが、その自治体を相手にした裁判であり、自治体の対応が納得できるものであったところでは、損害賠償を請求しようという意欲は少ないと思います。

一方で、自治体の対応に不満なところでは、住民が訴訟を起こして、損害を回復をめざすべきです。破産管財人の訴訟では、損害賠償が認められたとしても、他の債権者を含めて配当され、取り分が少なくなってしまうからです。

もともと、破産管財人は、住民が訴訟を起こすのであれば、その訴訟に訴えを引き継ぐという姿勢をとっていました。その方が、勝訴した場合の取り分が多くなるし、判決で決着をつけずに和解するとしても、そのハードルが低くなるからです。

この時点で訴訟をしていないところは、損害賠償を請求しようという意欲が少ないところだと思われます。そう考えると、破産管財人が訴訟を取り下げても、文句はほとんど出ないと思われます。そうした事情から、裁判が取り下げられたのではないかと想像しています。

建築確認制度の根幹について裁判で決着をつけられなかったことは残念ですが、本来の目的は損害の回復です。その目的にそって考えて、納得できるかどうかが問題です。

これで、いよいよ最終配当になるものと思われます。
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by gskay | 2010-01-10 14:50 | 損害と回復
和解の報道
川崎の物件はいずれも、迅速に建て替えを進めていました。仮住まいなどの費用を最小限にして、負担や損害を軽くするという方針だったと聞いています。その上で、しかるべきところから回収するという方針だったと思われます。民事裁判は、その回収のためのものだと思われます。その和解についての報道がありました。

耐震偽装で川崎市が和解へ マンション住民と - MSN産経ニュース
2009.6.1 20:41
 耐震強度が偽装された川崎市の分譲マンション「グランドステージ(GS)川崎大師」の住民33人が建設に不法行為があったとして、姉歯秀次元1級建築士(51)や川崎市など5者に、建て替え費用など約9億3500万円の賠償を求めた訴訟で川崎市などは、東京地裁の和解案を受け入れることを決めた。市が1日、明らかにした。

 今回和解するのは、同市のほか、マンションを設計したスペースワン建築研究所(東京)=清算中=と同研究所の建築士の3者。原告側によると、施工業者とは5月に和解が成立したが、内容は非公表で、姉歯元建築士とは係争中。

 市によると、和解案はスペースワンの建築士が1世帯に10万円で計230万円支払うほか、川崎市が原告に「同情の念を表明する」ことが盛り込まれた。市議会の同意を得て和解する見通し。


時事ドットコム:耐震偽装、施工会社と和解=マンション住民が受け入れ−川崎市も「同情」表明へ


 耐震強度偽装事件で、強度不足の構造計算書作成を見過ごし、建て替え費用などの損害を受けたとして、川崎市の分譲マンション旧グランドステージ(GS)川崎大師の住民33人が、同市や施工会社「太平工業」(東京都中央区)などに総額約9億3400万円の損害賠償を求めた訴訟は1日までに、住民側と同社との和解が東京地裁で成立した。和解金額は明らかにしていない。
 川崎市によると、地裁の勧告を受け、住民側は同市や設計監理をした設計事務所(清算中)、計算書を改ざんした姉歯秀次元一級建築士=実刑確定=とは別の元建築士の3者とも和解する方針。
 和解案は、市が住民側に同情の念を表明し、この元建築士が偽装を見逃した責任を認め、1戸当たり10万円を支払うなどとする内容だという。
 同建物には2004年10月に入居が始まったが、05年11月に偽装が発覚。1年後に建て替えが決まり、工事が完了した今年2月、住民が再入居した。
 太平工業の話 和解はしたが、コメントは差し控えたい。
 同マンション管理組合平貢秀理事長の話 裁判が続くと時間や訴訟費用が掛かるため、入居者全体を考えて妥協した。苦渋の選択だ。(2009/06/01-21:31)

神奈川県の自治体の方が、東京都内よりも対応や展開が早かったように見えますが、自治体としての対応は最小限であったようです。どのような内容の和解なのか詳しくは伝えられていませんが、市の「同情」というのは、大きな意味があると思われます。

都内の物件では、一般に、建て替えの実行に移るまでに時間がかかりましたが、それは、費用の負担についての問題を明確にするための時間でした。見方をかえると、その時間の分、仮住まいなどのための費用が増加することになります。

一方で、迅速な建て替えは、費用を少なくする効果はあります。しかし、住民にとっては、費用負担に耐えられるかどうかや、回収できるかどうかが不安のままの事業になります。また、回収のためには訴訟も避けられません。

それぞれの物件ごとに固有の事情があるので、いずれが妥当な方法なのかはわかりません。

この報道の物件では、訴訟を通し、自治体による最小限の対応から一歩踏み込んだものを引き出すことに成功したのだと想像します。

ホテルについての民事裁判では、ケースや裁判所によって判断が分かれていますが、自治体にとっては厳しいものもあります。そうした裁判の推移も、自治体が一歩を踏み出すきっかけになっているのかもしれません。
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by gskay | 2009-06-03 02:34 | 損害と回復
建て替えか、補修か
建て替えか、補修かで、負担額は全く異なります。愛知県のビジネスホテルの判決と、横浜市のヒューザー物件の対応とを比較すると、負担額や損失額についての考え方は一律にはできないように思います。重要なのは、所有者の納得や覚悟だと思います。

耐震偽装の被害に対する公的対応は、分譲マンションに対しておこなわれましたが、ビジネスホテルについては、公的対応はありませんでした。住むという生活と、企業の利潤を求めるための活動との間に線がひかれました。これ自体は、妥当だったと思います。

そのためか、ビジネスホテルは、とてもシンプルに訴訟を展開し、損害を回復しようとしています。逆にいうと、公的対応があったがために、複雑になっているところもないわけではないようです。建て替え相当の物件よりも、補修相当の物件の方がややこしいようです。

愛知県のビジネスホテルの場合、耐震強度は、「補修相当」。建て替えるべき物件ではなかったそうですが、オーナーの決断で、建て替えが行われました。補修よりも負担が増えることになります。その増えた分の負担もふくめて、耐震偽装の事件がなければ、そもそも負担する必要がなかったものです。しかし、裁判所は、補修に必要な費用のみを損害と認めて、建て替えをすることによって増加した負担を、損害とは認めませんでした。

一方、横浜市のヒューザー物件の場合、「建て替え相当」とされていたにもかかわらず、補修で対応しました。補修の方が費用も少ないので、技術的に解決策を見つけられるのであれば、妥当だと思います。ただ、ビジネスホテルの判決の方向で考えると、建て替えで費用が増えたとしても、住民の負担とはならない事も考えられます。その場合でも、住民は、補修という方向に納得したのでしょうか?

建て替えと補修の線引きには合理性が乏しいように思われます。建て替えにするべきか、補修にするべきかという決断は、結局、技術的な問題と、所有者の決断です。そこに、国のいきあたりばったりで作られた基準や、分譲マンションに限定された公的な対応が介入し、ややこしくなっているのだと思います。

技術的な問題について、愛知県のビジネスホテルのケースでは、建て替えでなく、補修で対応できるという根拠を、被告の側が示しているのでしょうか?それとも、補修ではなく、建て替えが必要だと言う原告の主張が退けられたのでしょうか?その議論の末の判決なら妥当です。

国の示した線引きは、あまりあてには出来ない代物のように思われます。結局は、所有者の決断であり、費用を負担をすることになる当事者同士の交渉にかかっていると思います。
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by gskay | 2009-03-07 01:13 | 損害と回復
建築確認の責任
耐震偽装に関連した裁判で、はじめて建築確認の責任を認める判決がありました。愛知県のビジネスホテルのケースです。

「「許可」ではなく、「確認」だから」というような字面にとらわれた不毛な言い逃れは、実態を考えるとナンセンスです。耐震偽装以前から、その権限や役割には重みがありました。それにもかかわらず、耐震偽装が発覚して以降、責任回避のための論陣が張られていました。

曖昧にとらえらえていた権限や役割を再確認させられる判決です。

ところで、以前に判決が出ている奈良のビジネスホテルのケースでは、建築確認にかかわったイーホームズの責任などは否定されているので、この判決とは異なるように思えます。奈良のケースは、耐震強度が不十分であるということを承知していながら木村建設が引き渡しを行ったことが、損害の原因であるという判決で、木村社長の詐欺が有罪になっていることを反映しています。違法建築が作られたことによって損害が生じたというより、違法建築を買わされたことで損害が生じたと考えて展開された裁判であったと思われます。この裁判とは異なる性質の裁判だったと考えるべきです。

耐震偽装ホテル訴訟 愛知県の過失認定


名古屋地裁 建築確認「注意怠る」
 耐震強度偽装事件で、強度不足のため建て替えられた愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」(中川三郎社長)が、建築確認をした愛知県と、コンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」(東京都)などを相手取り、ホテルの建設費や休業補償費など計約5億1600万円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は「審査を担当した県建築主事は安全性を保つための注意義務を怠った」などとホテル側の主張を全面的に認め、県と総研側に計約5700万円の支払いを命じた。一連の事件に絡み、行政側の過失を認めた判決は初めて。

総研と5700万賠償命令
 訴訟では、元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)が担当した構造設計の欠陥を見逃した責任が誰にあると判断されるか、注目された。
 判決はまず、建築主事について「危険な建築物を防ぐ最後のとりで」と指摘し、「高い信頼を寄せる建築主に対して、専門家としての注意義務を負う」とした。
 県側は建築確認について「審査対象は建築基準法など法令が決めた項目だけだ」と主張したが、判決では、今回の設計が、すき間のある耐震壁を1枚の壁としたり、阪神大震災で大きな被害に結びつき、特に注意が必要な1階部分に耐震壁がなかったりした点などを挙げ、「建築の専門家としての常識的判断に明らかに反していて不適切。耐震強度が確保されない危険な設計で、審査対象になる」などと指摘。「建築主事の通常の審査で容易に発見できるが、放置または看過した。設計者に問い合わせるなど調査をする必要があったが、これを怠った」と結論づけた。
 また、県は「建築主にも安全を確保する責任がある」とも主張したが、判決は「建築基準法はそこまで想定していない」として退けた。
 ホテルの開業を指導した総研については、「安全性を確保するため、業者を適切に選定し指導監督する注意義務があった」と判断した。
 ホテル側は建て替え前のホテルの建設費用などの賠償を求めたが、判決は、「耐震補強工事分」にとどまるとして損害額を約2億5000万円と算定。すでに施工業者から2億円の弁済を受けているとして、差額を賠償額とした。
 同ホテルは、2002年に開業。05年12月に震度5強程度の地震で倒壊する恐れがあることが判明したため休業し、建物を解体して新築工事を行い、07年4月に営業を再開した。
 神田真秋・愛知県知事は「主張が認められず残念。今後の対応は判決の内容を十分精査し、検討する」とのコメントを出した。
(2009年2月25日 読売新聞)


「建築主にも安全を確保する責任がある」という主張についての退け方には疑問があります。「建築基準法はそこまで想定していない」というより、建築主に安全確保の責務があるのは当然だが、そのことと建築確認が果たすべき役割を混同してはならないし、断じて建築確認が責任を伴わない行為ではないということだと思います。

私は、耐震偽装のマンションの所有者としての責務を果たそうと努力しているつもりです。役割に応じた対処のための努力をしなくてはいけないという責任は、問題の原因を作ってしまったという責任は異なるものです。裁判で争われたのは、問題の原因の方で、それが賠償につながると考えるべきです。

むしろ、それぞれが果たす役割を明確にして行く必要があると思います。

また、この建物では建て替えが行われていますが、これは補修で充分だったというのが裁判所の判断のようです。その判断は、国土交通省が出した方針に従っていると思われます。これを鵜呑みにしていいのかどうかは疑問です。

この裁判の争点にはなっていないようですが、そのような方針自体に公的な正当性があるのかどうか不明だからです。技術的、性能的な点にも議論の余地があります。

asahi.com・耐震偽装訴訟 愛知県の責任認め5700万円賠償命令


 姉歯秀次・元1級建築士による耐震強度偽装事件で、建て替えを余儀なくされた愛知県半田市の「センターワンホテル半田」の経営会社「半田電化工業」(中川三郎社長)が、建築確認をした県などに総額約5億1600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁であった。戸田久裁判長は、審査に過失があったとして県の責任を認め、約5700万円の支払いを命じた。
 一連の事件で、強度不足を見逃したとして行政の責任が認められたのは初めて。判決で戸田裁判長は建築確認審査は「危険な建築物を出現させないための最後の砦(とりで)」で、建築主事には建築主の信頼に応える専門家としての注意義務があると指摘。「設計上の問題について調査すべき注意義務を怠った」と述べた。
 一方で、当時は最長21日以内に審査するよう求められており、時間的制約に加え技術的基準は多岐にわたり、すべての項目を審査するのは困難だった、とも述べた。
 判決はまず、建設省(当時)監修の「建築構造審査要領」などを基準に審査する義務があったと指摘。その上で、基準に沿い、耐震壁の強度や設計型式について、具体的に検討した。
 10階建てホテルの2〜10階の耐震壁については、強度を満たすとした姉歯・元1級建築士の設計について、「建築の専門家としての常識的判断に反し明らかに不適切」と指摘。「構造図を見れば明らかで、通常の審査で容易に発見できたのに放置または看過した」と述べた。
 柱だけで支える1階の「ピロティ」の構造についても、阪神大震災で倒壊の危険性が指摘されたため、県が原則として禁止している型式で、技術的基準に反するとした。「大災害の貴重な教訓として確認された設計上の重要な注意事項」で留意がとりわけ必要なのに、建築主事は設計者に問い合わせもしなかったと指摘した。
 これら設計上の問題について調査しなかったことが、建築主事としての注意義務違反にあたると結論づけた。
 県などの賠償責任の範囲については、補強すれば建て替えの必要はなかったと指摘して、耐震補強工事費用分にとどまるとした。その額は約2億5千万円で、すでに施工業者から2億円の弁済を受けているため、残りを最終的な賠償額と認定した。
 コンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」(東京都)と、内河健・同所長も注意義務違反があるとして、県と連帯して賠償するように命じた。総研は、設計会社の選定と下請けとして姉歯・元1級建築士に危険な構造設計を行わせた注意義務違反があるとした。内河所長は監督責任を怠ったと認定した。
 判決について、県は「主張の一部が認められなかったのは誠に残念。今後の対応は内容を十分精査して検討する」、総研と内河所長の代理人の藤田浩司弁護士は「一部でも責任が認められた結果は承服できず、控訴するか検討したい」、とそれぞれのコメントを出した。(岩波精)


この記事では、「県が原則として禁止している型式」を不問にした点を詳しくとりあげています。一般的な審査の落ち度の問題以上に、自ら定めたルールをないがしろにしていたという実態がつきつけられています。形骸化した手続きに堕していたのではないかと感じられます。


行政の怠慢明確に 耐震偽装判決


「行政には、建築主の信頼に応える義務がある」——。建築確認で県の過失を明確に認めた、愛知県半田市のビジネスホテル「センターワンホテル半田」損害賠償訴訟の名古屋地裁判決。ホテルの営業再開後も苦しい経営を強いられている中川三郎社長(52)は、「これでようやくホテルの経営に集中できる」と安堵の表情を見せた。
 判決言い渡し後、記者会見した中川社長は、「落ち度が明確になった以上、県は少しでも早く、きちんとした対応を取ってほしい」と、語った。
 従業員を解雇して踏み出した“再出発”はいばらの道だった。7億円を超える建て替え費用が経営に重くのしかかる。昨秋以降、不況の影響もあり、ホテルの部屋の稼働率が目標に届かない月も多い。近隣にライバルとなる新しいビジネスホテルも営業を始めた。ホテル経営を取り巻く環境は厳しいが、中川社長は「地元の人たちの支えや従業員の頑張りがあったからこそ、やってこられた」と、耐震強度の偽装発覚後の3年2か月を振り返った。
 センターワンホテル半田は強度不足発覚後、自主休業を続けていたが、補強工事による営業再開を断念し、全従業員を解雇。2006年3月、10階建て126室の建物を解体した。
 07年4月には、客室を150室に増やした新たなホテルが完成し、解雇した従業員の一部を再雇用するなどして営業を再開した。
 中川社長は、耐震偽装の被害を受けた経験を各地で講演したほか、再建までの経緯を、名古屋市の劇団が演劇にまとめて公演するなど、大きな波紋を呼んだ。

審査の「専門家」 責任の重さ強調
 建築確認を行った愛知県の過失を認めた名古屋地裁判決は、行政としての責任の範囲を、幅広くとらえたものと言える。
 一連の耐震強度偽装事件では、元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)のほか、マンション開発会社の元社長らも罪に問われた。偽装は姉歯受刑者による個人犯罪と認定されたが、建築確認を行う自治体や、民間の指定確認検査機関が偽装を見抜けなかったことで、被害が深刻化したという側面がある点は否めない。
 判決は、こうした点を踏まえ、行政側の立場を違法建築物を防ぐ「最後のとりで」と表現した。安全に責任を負うのは建築主だとの訴えを始め、県の主張の多くは退けられ、その無責任体質を際だたせる形になった。事件後の法改正で、同様の偽装を防ぐ体制は整いつつあるものの、この日の判決は、審査の「専門家」としての行政に、改めてその責任の重さを突きつけたものだ。
(松田晋一郎)

愛知県「作業停滞の恐れ」
 落ち度はなかったとする主張を完全に退けられた愛知県。建築確認の担当者らは、判決に対する驚きや戸惑いを口にした。
 建築指導課の男性職員は、この日の判決について「法律で定めている以上のものを我々に求めているようにも感じた。この判決が求める基準を徹底すれば、作業の停滞などの影響が出る恐れがある」と感想を述べた。
 県は一連の耐震偽装が発覚した直後の2006年1月、同課に職員と外部の専門家による構造審査の専門チームを設置。提出を受けた構造計算書のデータを改めてコンピューターに入力して再計算し、申請書と同じ強度が得られるかなどをチェックする体制を整えた。同課の別の職員は「今は強度偽装を見落とすことは考えにくい」と話す。
 国土交通省によると、耐震強度偽装に関連し、建築確認を巡って訴訟になっているケースは現在12件あり、このうち10件で行政機関が被告に含まれている。昨年10月には、一連の偽装問題に巻き込まれ、休業した奈良市のホテルが起こした訴訟の判決が言い渡されたが、建築確認を行った民間の確認検査機関の賠償責任は認められなかった。

(2009年2月25日 読売新聞)

建築基準法という法律は、基準についての詳細な取り決めではあるものの、建築に関わる様々な立場の責任や役割については明確には定めていません。また、違法な建築に対する態度も曖昧です。

基準に対し遵法をめざす姿勢は評価すべきかもしれません。ただし、ほとんどの建物が、建築基準法が改正されると、既存不適格になってしまいます。違法とはされないものの、性能的には違法建築になってしまうというすごい法律です。

「法律で定めている以上のもの」という感想は、この法律を意味があるものにするための法律が欠落していることの裏返しだと思います。技術的に可能か不可能かという問題とは別の問題です。


勝訴の原告社長「事件乗り越え満足」

<ホテル耐震偽装>

2月24日22時4分配信 毎日新聞
 姉歯秀次・元1級建築士による一連の耐震強度偽装問題では、各地の裁判所で、行政が建築確認審査で偽装を見過ごしたとして責任を追及されている。行政側は「適法に審査した」「建築確認の項目に構造計算書の再計算は含まれない」などと反論しているが、判決はこうした行政の姿勢に疑問を投げかけた。
 耐震偽装で改修や休業を余儀なくされた愛知県大府市のホテルの運営会社(福井市)は08年8月、センターワンホテルと同様、愛知県を相手取って約2億7000万円の損害賠償を求めて提訴。運営会社の古市恭也社長は今回の判決を「行政の責任が認められた意味は大きい」と評価する。
 マンションの明け渡しを余儀なくされた元住民らも判決に好意的だ。東京地裁で同様の訴訟を争う「グランドステージ(GS)千歳烏山」(東京都世田谷区)の元住民で原告団長の西川智さん(38)は「非常にうれしい。建築確認の基準があいまいで、それを明確にすることが重要だ」と話す。同じく同地裁に訴えた「GS溝の口」(川崎市)の元住民で原告の木村政和さん(45)は「これまで元1級建築士だけに責任を押しつけ、他の関係者は責任逃れをしてきた。審査機関である自治体の過失を認定したという点で、私たちにとっても非常に明るい材料だ」と述べた。
 一方、総合経営研究所を相手取って、全国のホテル8軒と損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしている岐阜県高山市のビジネスホテル「カントリーホテル高山」のオーナー、垂井博美さん(71)は「行政の責任を認めた今回の判決を踏まえ、共闘を組んでいる仲間と協議し対策を考えたい」と話した。【山田一晶、三木陽介、鈴木一生】

 ◇東京で提訴の原告「大きな意味ある」
 東京地裁で同様の訴訟を争う「(グランドステージ)GS千歳烏山」(東京都世田谷区)の元住民で原告団長の西川智さん(38)は「非常にうれしい。建築確認の基準があいまいで、それを明確にすることが重要だ。今回の判決が東京の裁判にどのように有利に働くかは分からないが、審査する側の過失が認められたということは大きな意味がある。次の偽装を防ぐためにも良い方向に働くきっかけになると思う」と話す。
 同じく同地裁に訴えた「GS溝の口」(川崎市)の元住民で原告の木村政和さん(45)は「これまで元1級建築士の姉歯秀次受刑者だけに責任を押し付け、他の関係者は責任逃れをしてきた。今回の判決は、審査機関である自治体の過失を認定したという点で、私たちにとって非常に明るい材料だ」と述べた。【鈴木一生、三木陽介】

それぞれのケースに独自の事情があります。この判決は、特定行政庁である県が審査し建築確認を出しているケースでした。民間検査機関が関わった場合の考え方までは示されているわけではありません。

今後、どのような判断が出るのかは、個々のケースによって異なると思います。「基準」というものを扱っているため、一見、明確なものと思いがちですが、制度も運用もデタラメです。デタラメであるがゆえに、議論の余地が多すぎます。

控訴された場合、どのように判断されるのかはわかりませんが、この判決によって、考え方の一つが整理されたと思います。
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by gskay | 2009-02-26 04:53 | 損害と回復
破産配当と修正申告
所得税の申告にあたって、耐震偽装で背負うことになった損失は雑損として計上しています。引き切れなかった分は翌年に繰り越してきましたが、今年で繰り越しは最後になりました。私の場合、雑損の残りが出ました。

確定申告では、同時に、修正申告も済ませてきました。ヒューザーの破産管財人からの配当があったからです。2回分の中間配当の修正申告をしていなかったので、その修正申告をしました。

修正申告を申し出ると、税務署の担当の方が、修正申告のための申告用紙を作ってきてくれました。約30分で作成されました。私は、そこに住所と氏名を書いて捺印するだけで、簡単でした。自分でやったらもっと時間がかかるだろうし、きっと、間違ってしまって修正しなくてはならず、手間がかかったことと思います。助かりました。

2週間以内に申告をしないと延滞税がかかるそうです。私の場合、納税があるわけではないので問題にはなりませんでした。
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by gskay | 2009-02-23 20:59 | 損害と回復
大臣認定プログラムの欠陥への対処の不作為
国を相手取った裁判がはじまると、何もかも国の責任なのかという極端な疑問を出して反発する人が大勢居ます。少なくとも、今回の住民の提訴は、問題を限定しているようなので、何もかも国の責任だとは考えていないはずですが、そんなことを聞く耳はないようです。

国が与えたお墨付きに問題があった場合、国は直ちに対処しなくてはいけません。その対処を怠ったばかりに損害を拡大してしまいました。

耐震偽装に関連して直ちに対処しなければいけなかったのは、大臣認定プログラムの脆弱性と、大臣認定プログラムを用いた場合の確認手続きのありかたです。最初に問題が指摘されたときに、きちんと対応していれば、その後の被害の増加は防ぐことができたはずです。

これは、イーホームズの藤田社長が当初から主張していることです。

はじめから完璧な大臣認定プログラムができれば、それにこしたことはありませんが、そうでない以上、欠陥に充分に注意していなければいけません。欠陥に適切に対応すれば、被害は最小限におさえることができます。逆に、直ちに対処しなければ、影響が拡大してしまいます。これは、薬害における国の役割と同じです。

それをする気がないのなら、国は、大臣認定プログラムなどというものを作ったり、お墨付きをあたえたり、審査の手順の規定を作ったりしてはいけません。

耐震偽装と、建築確認の民間解放とは関係ないと思います。規制緩和の弊害でもありません。そんな大きな問題ではなく、大臣認定プログラムを巡る重大な問題を軽視し見過ごしてしまったという不作為が被害を拡大してしまった問題です。

ところで、イーホームズも被告になっている点は、この裁判の結果を左右するカギだと思います。イーホームズは、国の主張の側にはつかないと思います。大臣認定プログラムや確認手続きの問題点を指摘し、イーホームズの責任について反論すると思いますが、それは、原告に反論するというより、国の責任を追及するということにつながると思います。
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by gskay | 2008-10-10 01:57 | 損害と回復
不正発覚はいつだったのか?(住民による提訴についての続き)
ケンプラッツの記事が、住民による提訴を詳しく取り上げています。欠陥住宅の裁判というよりも、行政の不適切な対応を追及する裁判になるようです。昨今の情勢を考えると適切な方針だと思います。


【構造計算書偽造事件】マンション住民57人、建て替え費用などを求めて国を初提訴|ケンプラッツ



「佐々木 大輔[日経アーキテクチュア]」の署名のあるこの記事は、欠陥住宅が蔓延していることを漫然と憂うような記事ではなく、ポイントを的確についているように思います。建築・建設が専門のはずですが、そのレベルをこえていると思います。

導入的な部分に続いて、「偽装が容易な構造計算プログラム」の問題点の発覚が、いつにさかのぼることができるかを明らかにしています。「2002年9月に別の指定確認検査機関に不正が発覚」というのを、その時期だとしています。

耐震偽装が発覚し公表されたのは、2005年11月ということになっていますが、それ以前に、すでに問題は指摘されていました。にもかかわらず、国は、それに対応しませんでした。もし、その時点で適切に対応していたなら、それ以後の耐震偽装は発生しなかったはずです。

また、事件をうけて、「『法改正を行うということは、その不備と自らの過失を認めたということではないかと思わざるを得ない』」と指摘する一方で、「『本件事件は、国交省が建築士による安全確保の仕組みが完全に機能していない実態を知りながら漫然とこれを傍観した』」ことを問題としてとりあげています。

これは、行政の不作為を指摘する論理であり、追及のポイントとして的確だと思います。

しかし、同時に、「『行政の確認・検査業務を民間に開放して自らに課せられた責務を放棄したところに最大の原因』」と主張しているところには、疑問を感じます。そこは、行政の不作為の舞台にすぎません。追及のポイントがぶれてしまうのではないかと思います。

耐震偽装の構造計算書偽造は、民間検査機関でだけで見逃されたわけではなく、もともとは特定行政庁で見逃されたの始まりです。その点にも反するので、不適切な主張だと思います。異なる思惑が混入してしまっているように思います。

国土交通省建築指導課長のコメントは、「『事件を巡っては、居住者の安全と生活安定のため、補助などの形で支援してきた。確認検査機関の監督など、法的責任を問われるような法の執行はしていないと考えている』」ということですが、従来なら、不適切な法の執行さえなければ、行政が責任を問われるようなことはなかったかもしれません。しかし、以前とは異なり、行政といえども、適切な対処をしてこなかったことが問題になり、責任を問われるようになっています。

耐震偽装については、様々な切り口があると思いますが、行政、とりわけ国を相手取った裁判では、最初の不正発覚にさかのぼって行政の責任を追及する方針は、適切だと思われます。

弁護団の発想には、違和感を感じる部分もありましたが、この記事を読む限り、なかなかだと見直しています。

ところで,昨日のエントリに引用した読売新聞の記事ですが、「『国土交通省は02年ごろには、他の検査機関に関する不正の情報をつかんでいたのに、イーホームズなどへの立ち入り検査を怠った』と国の過失を……」と報じて、他の一般紙に比べれば、深く掘り下げていると思うのですが、よくわからない内容になっているのが残念です。
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by gskay | 2008-10-08 12:30 | 損害と回復