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危機管理の品質管理
マニュアルが想定していない事態に遭遇した場合、マニュアルは、かえって足を引っ張ります。危機管理にあたって、マニュアルの不備を問題にすることがありますが、そのマニュアルは、あくまで、非常事態の被害を小さくするためのマニュアルです。「危機」を克服するためのマニュアルとはいえません。

また、そうしたマニュアルは、被害を避けることができないからこそ存在するのであり、そうしたマニュアルを整備すれば、被害を逃れることができるという幻想は捨てるべきです。

質のよい製品やサービスを提供するために、マニュアルに沿うのは良いことだと思います。一定以上の水準を維持し、一定以下の不良品や失敗しか出さずにすみます。また、問題が発生した場合には、マニュアルからの逸脱の有無を点検することによって、大方の問題は解決します。責任も明確にすることができます。

同様に、想定された非常事態に対し、マニュアルに沿った対応をすることは、被害を最小限にするために必要なことです。そして、対応の責任を明確にすることに役立ちます。

つまり、品質管理が可能です。

しかし、非常事態が想定の範囲外だったら?

その想定外という事態は、問題が大きすぎて対応できないという事態も考えられますが、問題が小さすぎて、マニュアルで対応すると大袈裟になりすぎてしまうという事態もあります。

問題が大きすぎる場合でも、問題が小さすぎる場合でも、頼りになるのは「人」です。能力があるリーダーが責任をもって判断しなくてはいけません。これはマニュアルにはなじみません。したがって、品質管理と同じような発想で対応することはできません。

限界を超えた時に、頼りになる人材を、有効に活用できないシステムは、根本から見直す必要があります。

ところで、そもそも、被害があることを前提にしていないマニュアルには意味はありません。被害ゼロという究極の目標を達成するという使命は大切ですが、それは前提ではなく、「目標」です。

次いで、そのマニュアルの限界が明示されていないマニュアルは、想定外の状況では足かせになります。

危機管理のコンサルタントと称する人々の多くが唱えるのは、被害を最小限に抑えることであって、本当の危機や非常事態に立ち向かうことではないと思います。少なくとも、危機管理マニュアルを、大上段に振りかざすコンサルタントには限界があり、盲信はできません。

被害を最小限に抑えるためのマニュアルは、通常の製品やサービスの品質を維持するためのマニュアルと同じように整備されるべきですが、万能ではありません。それを逸脱したときにこそ、本当の危機管理が問われます。

新型インフルエンザの騒動をみていて、3年半前に耐震偽装に巻き込まれた時と同じ病弊に冒されていると感じました。本来頼りにするべき「人」の話には耳を傾けず、当事者をふみにじりながら、公的機関やメディアが暴走し、それを人々が盲信しました。

この新型インフルエンザ騒動は、現在のところ、新型インフルエンザが弱すぎると言う想定外ですが、その想定外の事態に対し、科学的な根拠が乏しい迷信による風習が蔓延しました。それを、公的な権威が肯定しているのは滑稽です。

その風習では、強い新型インフルエンザには対応できません。そうした迷信の通りに行動しない人が非難されることは、不愉快です。しかし、それ以上に、その風習が蔓延することは、強い新型インフルエンザを甘く見ることにつながる危険な発想であることを恐れます。

また、弱すぎるという事態への対応のデタラメさによって、どれだけの、経済的な損害が発生したことか……。経済的な損害を肯定する根拠は乏しいのですが、残念ながら、それを無条件に受け入れなくてはなりません。

その理不尽さは、耐震偽装に巻き込まれたときの理不尽さに良く似ていると思います。

結局、どのような教訓があったのでしょうか?

今度も、のど元をすぎれば、熱さを忘れてしまうのでしょうか?

危機管理のマニュアルに基づく対応をし、その対応の品質管理ばかりに気を配って、本末が転倒し、思考停止に陥っていると思います。マニュアルにしたがっていれば、考えなくていいし、無責任になれるので楽です。

もはや、問題を見極める努力は期待できないのでしょうか?せめて、危機管理を担うにふさわしい人物の発言を、ねじ曲げずに、そのままに理解すべきです。
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by gskay | 2009-06-14 15:55 | 安全と安心
和解の報道
川崎の物件はいずれも、迅速に建て替えを進めていました。仮住まいなどの費用を最小限にして、負担や損害を軽くするという方針だったと聞いています。その上で、しかるべきところから回収するという方針だったと思われます。民事裁判は、その回収のためのものだと思われます。その和解についての報道がありました。

耐震偽装で川崎市が和解へ マンション住民と - MSN産経ニュース
2009.6.1 20:41
 耐震強度が偽装された川崎市の分譲マンション「グランドステージ(GS)川崎大師」の住民33人が建設に不法行為があったとして、姉歯秀次元1級建築士(51)や川崎市など5者に、建て替え費用など約9億3500万円の賠償を求めた訴訟で川崎市などは、東京地裁の和解案を受け入れることを決めた。市が1日、明らかにした。

 今回和解するのは、同市のほか、マンションを設計したスペースワン建築研究所(東京)=清算中=と同研究所の建築士の3者。原告側によると、施工業者とは5月に和解が成立したが、内容は非公表で、姉歯元建築士とは係争中。

 市によると、和解案はスペースワンの建築士が1世帯に10万円で計230万円支払うほか、川崎市が原告に「同情の念を表明する」ことが盛り込まれた。市議会の同意を得て和解する見通し。


時事ドットコム:耐震偽装、施工会社と和解=マンション住民が受け入れ−川崎市も「同情」表明へ


 耐震強度偽装事件で、強度不足の構造計算書作成を見過ごし、建て替え費用などの損害を受けたとして、川崎市の分譲マンション旧グランドステージ(GS)川崎大師の住民33人が、同市や施工会社「太平工業」(東京都中央区)などに総額約9億3400万円の損害賠償を求めた訴訟は1日までに、住民側と同社との和解が東京地裁で成立した。和解金額は明らかにしていない。
 川崎市によると、地裁の勧告を受け、住民側は同市や設計監理をした設計事務所(清算中)、計算書を改ざんした姉歯秀次元一級建築士=実刑確定=とは別の元建築士の3者とも和解する方針。
 和解案は、市が住民側に同情の念を表明し、この元建築士が偽装を見逃した責任を認め、1戸当たり10万円を支払うなどとする内容だという。
 同建物には2004年10月に入居が始まったが、05年11月に偽装が発覚。1年後に建て替えが決まり、工事が完了した今年2月、住民が再入居した。
 太平工業の話 和解はしたが、コメントは差し控えたい。
 同マンション管理組合平貢秀理事長の話 裁判が続くと時間や訴訟費用が掛かるため、入居者全体を考えて妥協した。苦渋の選択だ。(2009/06/01-21:31)

神奈川県の自治体の方が、東京都内よりも対応や展開が早かったように見えますが、自治体としての対応は最小限であったようです。どのような内容の和解なのか詳しくは伝えられていませんが、市の「同情」というのは、大きな意味があると思われます。

都内の物件では、一般に、建て替えの実行に移るまでに時間がかかりましたが、それは、費用の負担についての問題を明確にするための時間でした。見方をかえると、その時間の分、仮住まいなどのための費用が増加することになります。

一方で、迅速な建て替えは、費用を少なくする効果はあります。しかし、住民にとっては、費用負担に耐えられるかどうかや、回収できるかどうかが不安のままの事業になります。また、回収のためには訴訟も避けられません。

それぞれの物件ごとに固有の事情があるので、いずれが妥当な方法なのかはわかりません。

この報道の物件では、訴訟を通し、自治体による最小限の対応から一歩踏み込んだものを引き出すことに成功したのだと想像します。

ホテルについての民事裁判では、ケースや裁判所によって判断が分かれていますが、自治体にとっては厳しいものもあります。そうした裁判の推移も、自治体が一歩を踏み出すきっかけになっているのかもしれません。
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by gskay | 2009-06-03 02:34 | 損害と回復