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構造設計者による再計算?
アパの耐震偽装に関連し、構造設計を担当した水落建築士は、再計算などに忙殺されていて、問題の全容が明らかになるのは、相当先になる見通しとのこと。

建築物を適法に保つ責務は、所有者や建築主、施工や設計、それに監理によって担われるもので、特定行政庁や検査機関の関わりは副次的です。適法であるかどうかは、本来的に責任を負うものが明らかにするべきことのようです。

しかし、違法の取り締まりという点では、特定行政庁が主体になって、断固として実施すべきことだと思われるので、水落建築士の再計算待ちという状況に違和感を感じます。

藤田さんも、姉歯元建築士の事件では、本当の計算は計算をした元建築士にしかわからないと指摘しています。それぞれが独自の設定をしてシュミレーションするという仕組みであり、その設定次第で、幅が出てしまうといます。これは、現在の構造計算の限界であり、それを、取り締まろうとするのは簡単なことではないと思います。

現状では、特定行政庁が問題を指摘しても、構造設計者が否定する限り、直ちに断定することはできません。そこで、構造計算した人の申し開きや反論のために、再計算の機会が与えられているようです。

特定行政庁が構造計算を検査する能力は、とても貧弱であるといわれています。手に負えない特定行政庁があってもおかしくないと思いますが、その場合は、外注してこなしているのではないかと想像します。中には、特定行政庁が、再計算に消極的で、当人の再計算の結果を待っているという役所もあるかもしれないと想像します。費用がかかることですから……。

第一次耐震偽装の時は、熊本などでは、混乱がみられました。結局、設計者の主張が通りました。そうしたことへの反省があって、今回は、慎重なのかもしれないと思います。

水落建築士が実施している再計算は、適法であることを明らかにすることで、疑いに対する申し開きや反論をする目的であろうと思います。ただ、その計算に手間取っているとしたら、たとえ、耐震偽装の疑いがあっても、だらだらと再計算していると、逃げ切れてしまうという抜け道になってしまい、結局、白黒がはっきりししないばかりか、仮に性能不足の物件があったとしも、放置されてしまいかねないという問題のある措置ではないかと思います。

どの程度まで、建築士に申し開きや反論の機会を与えるべきかということが、適切にシステム化されていないと感じています。

ところで、札幌の元二級建築士の場合も、彼は、計算の手順はともかく、性能は保たれていると主張していました。サムシングのケースも同様に、性能が不足することはないと主張していたように記憶しています。

この辺が、姉歯元建築士を特殊な存在にしていると思います。彼は、唯一、自分の偽装の不適切さを認め、性能に問題があることを認めました。

もし、彼が、「性能は大丈夫であるはず」と主張していたら、展開が変わっていた可能性があると思います。組織的な構図を示唆するような発言などせず、「性能は大丈夫であるはず」と言い張っていれば、マスコミが追いつけないような高度な専門的知識が必要になるばかりか、時間もかかってマスコミが飽きてしまい、あのような国をあげての大パニックにはならなかったのではないかと思います。

他の建築士たちと比較してみると、彼は発覚後の混乱を引き起こした張本人だったといえると思います。

「大丈夫であるはず」と思い込める程の低い能力であったり、問題を認識できなかったりする程度の人物であったなら、「大丈夫であるはず」を言い続けられたと思います。「大丈夫」という計算を改めてひねり出す程の能力をもっていても、「大丈夫であるはず」を言い続けられたと思います。

そのどちらでもなかったために、構図が作られる種を撒いてしまったのだと思います。

彼は、計算を構造設計者自身が行って申し開きをしたり反論したりする機会を利用しようとは考えなかったわけですが、もし、それを利用していれば、だらだらと時間稼ぎをして切り抜けることも不可能ではなかったといえます。望ましい事ではありませんが……。

どうやら、彼は、この変な仕組みの弱点を熟知していたわけではなかったのだと思います。
by gskay | 2007-02-22 17:09 | 揺れる システム