公開すべき共通の指標
耐震偽装について、今後の教訓になるような分析や提案は、メディア上には少ないという印象を持ってきました。また、公的な仕組みも改正されてはいますが、根本的な発想が変わっておらず、脆弱な基盤の上に、これまでの仕組みと大して変わらない仕組みを積み上げているだけのように思われます。余計な負担になるだけで、解決策とはいえないと危惧しています。
そんな中、以前のエントリでも取り上げた『日経ビジネス』の山岡淳一郎さんのコラムで、興味深い提案を知りました。
「何しろ耐震偽装は、一級建築士をそろえた建築確認検査機関も歯止めにならなかったし、消費者のマンション選びをサポートする会社に依頼してさえ、危険を察知できなかった例も個人的に知っている。素人にはとても太刀打ちできない。」という前提で考えている点が重要な視点だと思います。 その上で、「東京電機大学建築学科の今川憲英教授」が登場し、ヒューザーの販売用パンフレットをこき下ろし、かつ、「これはどのデベロッパーのパンフレットも似たようなものです」と指摘しています。 これには共感します。今でも、マンションの宣伝がどんどん配達されて来ますが、ヒューザーのそっけないパンフレットとの違いは、周囲の環境を強調したり、イメージ画像に凝っているいる位で、肝心の情報は、ヒューザーのそっけないパンフレットと変わらないと思います。そういう点では、あまり反省されてはいないのかもしれません。 そんな状況に対し、購入者が対抗するための提案をコラムでは取り上げています。 ひとつは、「建物の設計や施工にかかわる5種の図書類を調べたほうがいい」と。5種として、『基本設計図書』、『実施設計図書(構造図や構造計算書、設備図など含む)』、『施工図』、『竣工図』そして、『パンフレット』をあげています。 これについては、計画段階で販売が始まるという点を考えると、必ずしも実情にあっている提案ではないと思います。まあ、少なくとも引き渡しを回避することには役立ちそうですが……。 これらの図書を調べるという発想は、従来からもありました。しかし、「消費者のマンション選びをサポートする会社」が、ことごとく空振りをしていたという実情が問題意識の前提になっていることを考えると、現実的だとはいえないと思います。また、特定行政庁や検査機関が検査してもわからなかったという点で、ますます苦しい提案ではないかと思います。再検査も、極めて長い時間がかかっています。 今後、試験で誕生した構造検査の「判定員」の活躍次第で、これが現実的なものになるかどうかが決まるのかもしれませんが、今は、これを優れた提案だとは思えません。 次に、「共通の指標の公開が必要」と提案しています。私は、これを興味深い提案だと思いました。 「素材」、「構造」、「荷重」、「接合方法」、「最適価格」、「耐久性」、「建て方」という7つの指標から得られる「空間デザイン認識関数」というものの有用性を提案しています。もし、それが簡単に理解できるものであるなら、とても価値があるものだと思います。 図面からこの指標を読み解くのは難しいと指摘していますが、それは、現状の検査の様子を見る限り、納得できることです。発想が逆転している点が、この提案のポイントだと思います。どのような考えで設計し、何を実現しようとしているのかということを明確に示す指標こそ、全体像を把握する上で価値があるということだという考えだと思います。 契約における宅建主任による「重要事項」の説明では、そういう点までつっこんだ話はありませんでした。この指標なら、取り入れることは可能かも知れないと思います。図面をもとにした議論をするのは非現実的だと思いますが、これなら受け入れることができるのではないかと思います。 既存の発想の延長で、いくら検査制度を高度にしても、素人にとっては、ブラックボックスが一つ増えるに過ぎません。これまでの建築確認をはじめとする検査制度も、性能評価の制度も、期待に沿う事ができませんでした。今後の検査制度の充実も、「合格」と書かれた紙切れが増えるだけで、購入者の判断の材料にはならない仕組みになりかねないと考えています。 検査制度を高度にする努力だけでは得られない何かが、まだまだあります。その一つへの有効なアプローチが、提案された指標の共通化と公開だと思います。これを、「重要事項」として説明し、違背した場合に考慮すべき対象とすることが必要ではないかと思います。 ところで、「消費者のマンション選びをサポートする会社」についてですが、そろそろ、しかるべきあり方をきめた方がいいのではないかと思います。肝心なことを指摘できなくても、「ダメでもともと」という商売は、あまりに無責任です。然るべき責任を負う仕組みの中でしっかりと「サポート」していく会社を作らなくてはならないと思います。
by gskay
| 2007-05-14 08:00
| 安全と安心
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耐震偽装発覚から、5年。建て替えが再開発事業としてすすめられています。
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