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自治体への指導?
年金着服の問題でも、建築確認の問題でも、自治体にしわ寄せがいっています。

年金着服については、すでに運用が終わっている制度における不正が問題になりました。厚生労働大臣の強硬な姿勢には賛否両論があり、また、告発される事例についても、すでに弁償がすんでいて、懲戒されているものまで含まれていることに違和感を感じる人もいるようです。加えて、報じられる金額が小さい……。

この告発には、中央官庁の官僚の裁量による自治体への指導の位置付けを問う大きな意味があると思います。

これまで、中央官庁の官僚の裁量による指導は、絶対的な権威でした。すでになされた指導をくつがえし、ここで告発をするということは、その権威を否定するものです。

行政による処分で充分かどうかという問題や、司法によって最終的な処分が決まるという原則にかかわる問題も重要かもしれませんが、これとは別で、全く異なる意義があります。

これまでなら、中央官庁の官僚からの指導に従っていて問題になることはありませんでした。今回も、多くの自治体は社会保険庁の指導に従って、行政の枠組みで懲戒などの処分を行いました。刑事事件としての告発が見送られたのも、その社会保険庁の指導に従うものでした。その社会保険庁の「指導」を否定してみせたのが、厚生労働大臣による「告発」問題です。

刑事事件として処理されることの是非のかげに、このような重大な意義が隠れていたことを、私は明確には理解していなかったと思います。

年金に関しては、省庁横断による対応が始まり、厚生労働省・社会保険庁は、独占的な「縄張り」を失いました。加えて、どうやら地方自治体への中央官庁の官僚の裁量に基づく指導の絶対性も失われたようです。

首長からの抗議もあったようですが、その抗議や対応もふくめて、厚生労働省・社会保険庁の官僚の裁量を超越した対応がなされているように思います。

見事だと思います。

一方、建築確認の問題は、国家経済への悪影響への懸念が生じる程の深刻な問題です。すでに、国土交通省単独での対応は不可能と判断されているようで、関係省庁が対応を始めています。

いくら他省庁が動いても、技術的なことへのけじめをつけるのは国土交通省自身です。断じて、自治体ではありません。改正された建築基準法の施行に必要な措置をおこたってきたのですから。

それを、建築確認にあたる自治体の「理解不足」として片付けることは、自治体の理解をえられないのが当然だと思います。国土交通省への信頼はボロボロで、総務省のサポートが不可欠な状況になっているようです。

ところで、この建築確認の混乱のケースも、中央官庁の官僚の権威を否定しています。ただ、年金とはかなり異なっています。

年金の場合、中央官庁の官僚による指導の絶対性を大臣が否定しました。しかし、建築確認の場合は、今のところ、大臣は中央官庁の官僚の言い分を弁護しています。

これは、地方分権の進め方にもかかわるデリケートな問題をはらんでいます。

年金の問題は、厚生労働大臣が中央官庁によって保持されてきた主導権を保っています。中央官庁の中で、官僚の裁量と大臣の判断のいずれが上位にあるかという問題にすぎません。

しかし、建築確認の問題は、自治体の方から国土交通省を見限る可能性がある問題です。この点が、大臣の対応の差を作っているのだと思います。

地方分権は、地方からの要求があるとはいえ、中央主導です。地方が中央から離反したり、中央を見限ったりすることではありません。しかし、建築確認の現実的な混乱は、あまりに中央がお粗末すぎるために、離反や見限りの素地になりかねない状況になっています。

中央と地方の関係が、今までであったなら、ありえなかった関係へと変化しかねません。

そこが、厚生労働大臣と国土交通大臣の対応の違いを生んでいるのだと思います。

国土交通省は、大臣の判断と官僚の裁量のいずれが上位にあるかというような問題を論じることさえできない程のピンチです。

中央官庁のお粗末さから、中央と地方という枠組みのような根本的な問題へと発展し、国というもののあり方が揺らいでいます。国、とりわけ中央官庁への信頼がこれほど揺らいだことはないのではないかと思います。

裏切られたという不信なら従来にもありました。しかし、今回は違います。その実力に信頼がおけないという不信です。
by gskay | 2007-10-24 14:07 | 政治と役所と業界