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規制再強化
タクシー規制の再強化の方向性については、安全の確保や、運転手の労働の問題に直接介入するのなら意味があると思います。しかし、国土交通省の再強化の方向は、経営に関するもので、安全の確保や運転手の待遇の向上には間接的にしか影響しません。

加えて、法律による規制に先立って、通達によって規制を行うという方法が妥当であるなら、わざわざ法律で規制する必要さえないのではないかと思います。

この規制再強化問題は、何重にも重要な問題を含んでいるように思います。

本来、「規制緩和」では、「御上のお気持ち次第」の不明朗で行き当たりばったりで恣意的な規制や、経営を過剰に保護するような規制は、「緩和」というより、「解消」されなくてはならなかったと思います。それは、公平な競争を阻害するからです。しかし、その大切な部分が、ないがしろにされているように思います。

タクシー増車規制拡大 全国の8割「特別監視地域」(フジサンケイ ビジネスアイ) - Yahoo!ニュース


タクシー増車規制拡大 全国の8割「特別監視地域」

7月12日8時26分配信 フジサンケイ ビジネスアイ

 国土交通省は11日、全国のタクシー営業区域の約80%にあたる537区域を、既存業者の増車を規制する「特別監視地域」に、うちの109地域は新規参入についても規制を強化する「特定特別監視地域」に指定した。指定期間は3年間。これまで特別監視地域は67区域、特定特別監視地域は6区域だったが、そのエリアを大幅に拡大し、指定要件も緩和した。

 国交省は2009年の通常国会に営業台数の制限を柱とした道路運送法改正案を提出する予定で、今回の措置には改正法施行前の“かけこみ増車”を防ぐ狙いがある。しかし、行政通達の変更という簡単な手法で行う規制強化の前倒しに対しては批判の声も根強い。

 タクシーの営業区域は全国で644。特別監視地域の指定を受けると増車時の監査が強化され、違反業者には車両使用の停止といった処分が科される。指定要件にはこれまで「1日1車当たりの実車キロが前年度と比べ減少」といった項目があったが、今回新たに「実車キロが規制緩和前の13年度と比べ減少」などの要件が加わり、指定が容易になった。

 特定特別監視地域は、特別監視地域のうち競争過剰による運転手の労働悪化を招く懸念が大きな地域。今回、都市の人口規模を「30万人以上」から「10万人以上」に引き下げるなど指定要件を緩和した。

 また、今年1月に増車や参入を一切禁止する「緊急調整地域」に指定された仙台市について、「法改正前のかけこみ増車を防ぐため」(冬柴鉄三国交相)、指定期間を今年8月末から11年1月まで延長した。

 国交省は02年にタクシー事業参入の規制を緩和したが、優良業者にとっての参入チャンスをますます狭める動きに対しては、「規制緩和に逆行している」との厳しい批判が向けられている。

タクシー規制の再強化に関する多くの記事の中で、引用の記事は、手続きに対する疑問を投げかけている点に特徴があるように思いました。

通達の意義と、法律の意義を見直す必要があると思います。少なくともこの法律改正は法律案として提出されてもいないのに、あたかも可決しているかのような通達です。むしろ、通達の方が、既成事実として法律改正の前提になりかねないように思われます。これは、「法の支配」の原則にも、国会の立法機関としての地位にも反するのではないかと思うのですが……。「裁量」が入り込む余地が多く、この規制は、「御上のお気持ち次第」の規制のように思われます。

また、業者の経営に介入するという規制は、規制の責任も経営の責任も曖昧にしてしまいます。規制が成功したのか失敗したのかは、経営という要素が加わるために、はっきりとわからなくなってしまいます。また、経営の責任が曖昧になる結果、経営の問題として解決されなくては行けない問題が、解決されないままとなるばかりか、別のところに転嫁されてしまいます。タクシー業界の問題では、その歪みが、運転手という労働者に転嫁されることになると思います。

「規制緩和」の弊害として「格差問題」がとりあげられますが、「格差社会」に対するアプローチでは、業者の経営に対する規制緩和と、労働に関わる規制緩和とは区別して考えるべきだと、私は考えています。

労働に関する規制緩和の弊害についての議論は、私は納得できると感じています。社会保障の問題からみても、消費の面からみても、公権力による規制や介入は有効であると考えています。

しかし、既存の業者を保護するような「規制」については、経営の失敗を有耶無耶にするだけで、「格差問題」の解決にはならないばかりか、新たな泥沼にはまることになると思います。このタクシー規制の再強化は、運転手の待遇の改善に直接関わるものではありません。そして、安全の問題とも別です。

こうした点が、ゴチャゴチャです。少なくともこの規制強化については、「格差社会」への対策という理由は、都合の良い口実やすり替えで、あくまで、直接的には経営の保護です。このように経営の責任を曖昧にするような方向で規制するのは、私には、適切だとは思えません。労働の問題、あるいは安全の問題として、もっと有効で直接的な「規制」や「介入」を試みるべきです。

そして、その結果として生じる運転手の待遇改善や安全のための経費については、それを受け入れて経営するべきです。そこを誤摩化してはいけないと思います。

低成長であるからこそ、経営は責任を持って行われなくてはいけません。高度な経済成長をしている時なら、経営は何をやっても余程のことが無い限り失敗しないので、責任を意識しなくても何とかなったと思います。しかし、低成長では、競争の結果として、経営の失敗は明白になります。

その明白になった失敗の責任を、経営が負わず、労働者に転嫁してきたのが、今の格差社会の元凶だと、私は考えています。それに加えて労働に関わる規制緩和が、経営にとって都合が良かったために、経営の責任が表面化せずにすんできました。それでも、どうにもならなくなり、「規制」の再強化によって、経営を再び保護しようとしているように思います。

それが、公平で妥当であるかどうかという点では、問題が多いように思います。加えて、「格差問題」には、間接的な効果しかありません。漫然とした経営が許されてしまう素地を公的に作らなくてはならない理由は、私にはよくわかりません。

ところで、「規制緩和」の弊害を取り除くために、一部の「規制再強化」は避けられないと思います。しかし、その「再強化」は、やり方を誤ると、官僚に対する「規制緩和」になってしまうことが心配です。このタクシー規制の再強化はその一つではないかと思います。

規制強化に進むとしても、官僚の「裁量」や「無謬性」については、後からの検証が可能な仕組みが必要であり、規制の権限を野放しにしてはいけないと思います。官僚の規制の失敗は、大きな悪影響を残します。これについては、経営の失敗以上の責任を問うべきだと思います。もし、そのような仕組みが確立していれば、無闇に経営に介入するような規制はとりにくくなると思います。
by gskay | 2008-07-15 07:51 | 政治と役所と業界