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住民による国への提訴
私のマンションでは、裁判を行うという話はありません。自治体による最大限の配慮のもと、まだまだ調整しなくてはいけないことがたくさんあるようですが、建て替え事業は着実に進んでいます。

耐震偽装という問題が発生した経緯や責任の有無の追及は切り離し、その後の対応だけを考えれば、建て替え事業が最大の関心です。それが頓挫しているのなら、訴訟も辞さない覚悟はあります。しかし、幸いにして、その必要は感じていません。

国や自治体などを相手取った住民による裁判が提訴されたということですが、提訴したのは、住民の強い意志によって、早い時期から建て替えに取り組んだマンションです。建て替えを速やかに行うことで負担を最小限にするとともに、損害の回復や費用負担についての追及は、建て替えの後にじっくりと取り組むという方針だったのだと想像しています。その取り組みに決着がついていないのであれば、時効を考慮し、この時期に提訴する必要があります。

行政の不適切な手続きが、不作為や恣意的な裁量と判断されるケースが増えているように思います。権限にともなう責任が法令には明記されていないことが多いものの、裁判所が司法の論理で判断すれば、しかるべき判断が下されると思います。

ただ、行政を統治と考え、司法を行政による統治の一部を分権したものと考える裁判官も多いと思うので、簡単には好ましい判断を得るのは難しいと思います。加えて、法律は、責任が明記されていないどころか、公的な権限に責任が及ばないような工夫までされていますし……。


耐震偽装の姉歯マンション、住民が国などに10億円損賠提訴(読売新聞) - Yahoo!ニュース


10月6日21時57分配信 読売新聞

 耐震強度が偽装された2つの分譲マンションの住民が、国と自治体、指定確認検査機関イーホームズ(廃業)に建て替え費用や慰謝料など計約10億4500万円の損害賠償を求める訴訟を6日、東京地裁に起こした。

 耐震偽装を巡る訴訟で、国を訴えたのは初めて。

 訴えたのは、「グランドステージ(GS)千歳烏山」(東京都世田谷区)と「GS溝の口」(川崎市)の住民38世帯57人。

 訴状によると、原告らは2002年〜04年、元1級建築士・姉歯秀次受刑者(51)が構造計算を行い、ヒューザー(破産)が販売したこれらのマンションを約4000万〜6000万円で購入した。しかし、05年11月の耐震偽装問題発覚で、いずれも解体の対象となり、住宅ローン以外に、建て替え費用約2000万円の追加負担を強いられたという。

 訴状では、「国は偽装が容易な構造計算プログラムを認定し、確認検査機関の監督も不十分だった」と主張。

 「国土交通省は02年ごろには、他の検査機関に関する不正の情報をつかんでいたのに、イーホームズなどへの立ち入り検査を怠った」と国の過失を指摘している。

 提訴後、東京・霞が関の弁護士会館で記者会見した原告の西川智さん(38)は「国は建築確認の民間開放を進めたが、経済効率を優先するずさんな検査がまかり通り、いくつもの欠陥住宅が生み出された。国民の安全を守る義務を放棄した責任は重い」と話した。

 井上俊之・国交省建築指導課長の話「確認検査機関の監督などは適正に行っており、法的責任はないと考えている」


大した問題ではありませんが、国を訴えると、自己責任論が再燃する可能性もあると思います。国を訴えるということだけで、過剰な批判を浴びることなりかねませんが、おそらく、中身はともないません。そのような雑音には影響されずに、頑張って欲しいと思います。

耐震偽装における自己責任論につきものの「安物買いの銭失い」説は、今でも根強いと思います。そもそもの「安物」説は実態に基づくものではなく、イメージ操作による虚構です。しかし、体力がないデベロッパーから購入したために、ややこしいことになっているのは事実です。

このややこしい状況は、自分の責任で克服しなくてはいけません。克服には様々な方法があります。何もせず、甘んじて被害に耐えるという方法もあります。徹底的に納得するまで交渉を続けるという方法もあります。国を訴えるという選択も、様々な選択肢の中のひとつであり、訴えた住民は、自らの責任で選んだものだと思います。訴えた住民が自らの責任を放棄し、国に責任転嫁しようとしているという非難は見当違いです。

耐震偽装が発生してしまった背景は、おおむね解明されています。そこに国の関与があります。ただし、法律は、その行為の責任を明記していないので、どのような責任を負うべきか明確ではありません。それが、「井上俊之・国交省建築指導課長の話『確認検査機関の監督などは適正に行っており、法的責任はないと考えている』」という発言につながっていると思います。

これまでは、不作為にしろ、恣意的な裁量にしろ、行政を裁くのは難しいことでした。最近は、言い逃れが許されない事例が増えています。耐震偽装がそのような事例にあたるかどうかはわかりません。しかし、それが明らかでないからこそ、裁判で決着をつける必要があるのだと思われます。

ところで、弁護団がどのように考えているかわかりませんが、一点だけでも住民の請求が認められれば充分だと思います。行政が費用を負担するための何らかの根拠が得られればいいのですから。

裁判を通じて、日本中に蔓延する欠陥住宅問題の解決に貢献しようなどとは思わない事が大切だと思います。広く問題を扱うのではなく、勝てるポイントだけで勝負し勝つ事が本当の前進であり、問題解決への貢献です。

うまくいけば、高裁までで決着すると思います。情勢が不利になると、当局は最高裁の判断を避けると思います。最高裁の判断は、当局を拘束することになるからです。

「国は建築確認の民間開放を進めたが、経済効率を優先するずさんな検査がまかり通り、いくつもの欠陥住宅が生み出された。国民の安全を守る義務を放棄した責任は重い」という問題意識は、そうかもしれません。しかし、それを明らかして正義を貫くための裁判ではなく、請求した費用や慰謝料を獲得するための裁判として頑張って欲しいと思います。

正義を確認するためだけの裁判などありえません。被害の回復のためだと割り切って裁判を行うべきだと思います。裁判にとっては、正義は、請求を勝ち取るための道具に過ぎないと思います。判決によって正義が確認されるかもしれませんが、本末が転倒することがないようにしっかりと頑張って欲しいと思います。

ところで、ヒューザーも、国や自治体を相手取った訴訟を起こしていて、取り下げられたという話はきいていないので、破産管財人がその裁判を続けていると思います。その裁判の一部は、今回の住民からの訴訟と重複するように思います。その部分が住民の訴訟に移されることになるのか、一緒に裁判をするのかわかりません。

ヒューザーや住民が裁判に勝った場合、自ら訴えている住民は、自分たちが請求して認められた分については、全てを得ることができます。これに対し、訴えていない住民は、ヒューザーの破産財団からの配当になるので、ヒューザーが勝ったとしても、他の債権者への配当にもまわされてしまうので、受け取れる額は小さくなることと思います。そういう点でも、住民が自ら訴え出ることには意義があります。

住民と住民側の弁護団が、どのような方針で臨むのかわかりません。ヒューザーの破産管財人の裁判も時間がかかっているように思われます。同じように時間がかかり過ぎると訴訟を維持するだけで大きな負担になります。的確に裁判が進めることが大切だと思います。

訴訟をめぐっては、メリットやデメリット、リスクをどのように評価するか、それぞれの事情で異なります。全ての住民が自ら裁判に訴えるという状況にはならないだろうと思います。
by gskay | 2008-10-07 05:45 | 損害と回復